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分科会でご用意致しました各賞の受賞者と発表タイトルの一覧です。
受賞された皆様、おめでとうございます!次回夏の学校においても皆様のチャレンジをお待ちしています!
A-5 比嘉 亮太 (大阪大学大学院理学研究科)
『DMFTへの挑戦』
B-7 矢野 力三 (東京工業大学大学院総合理工研究科)
『チオスピネル(Cu,Zn)Cr2S4におけるハーフメタルの開発』
C-3 岩崎 淳一 (東京大学大学院工学系研究科)
『電流駆動スキルミオンダイナミクスの理論的研究』
D-2 関口 文哉 (東京大学大学院理学系研究科)
『半導体Ge中の電子正孔系のテラヘルツ分光』
E-3 増田 愛 (大阪大学大学院理学研究科)
『T細胞ワクチネーションにおける数理モデル』
F-3 高田 智史 (京都大学基礎物理学研究所)
『Simulation of pattern dynamics of cohesive granular particlesunder a plane shear』
分科会は3~4分野5~6会場に分かれて各分野の最先端で活躍する若手招待講演者(発表30分+質問10分)と発表希望者(発表10分+質問5分)による口頭発表を行う企画です。学会や研究会などの口頭発表と同じ形式ですので、発表練習の場として大いに活用できると思います。
今年は、優秀な発表をした方に、素敵な賞を送る予定です。
物性若手夏の学校の分科会は、学会や研究会などと比べてかなり敷居の低い口頭発表です。どのくらい敷居が低いのか、簡単に比較をしてみましょう。
分科会発表 | 学会発表 |
---|---|
研究成果の十分出ていない人も歓迎 | 学会発表に足る成果があることが前提 |
自分の好きなように発表できる | 発表内容は指導教官と打ち合わせを重ねる |
おおざっぱな分野分けなので専門外の聴衆が大半 | 最先端でしのぎを削る研究者が聴衆 |
どうでしょうか? 同じ口頭発表でも学会とはずいぶん違い、あまり緊張せずに発表できると思います。
口頭発表は、短い時間の中でいかに要点を伝えるかが重要になります。まだ発表経験の少ない人にとって、分科会で発表することは貴重な経験になるでしょう。学会発表へ向けた練習の場として大いに役立ててください!
もちろん、分科会ではPSよりも多くの人に聞いてもらえるため、質疑応答や休憩時間などで、より有意義な議論をすることができると思います。発表慣れしている方も、自分の研究内容をアピールする場としてぜひ利用してください!
隣の研究室の、学部時代の友人の研究内容をちゃんと理解してますか?
すでに肌で感じている方も多いかもしれませんが、現代の研究の現場というのは非常に専門化が進んでいます。例えば日本物理学会の物性分野は現在12領域(物理教育を除く)に分けられ、発表の際はさらに細かい100を越える分野に分けられます(数えてみてビックリしました!)。
それに比べると物性若手夏の学校の分科会はとても大雑把な分け方です。しかし、物性若手夏の学校の分科会ではこの大雑把さのおかげで若干関わりはあるものの普段聞くことの無い研究に触れることができます。ぜひ、発表している人にいろいろ質問をして、物性物理の面白さを肌で感じてください!
また、分科会招待講演では今をときめく若手研究者の方々に最新の研究成果をお話ししていただきます。エキサイティングな研究の話を聞けると同時に質疑応答や休憩・食事・懇談会を通じて学会とは全く異なる距離感でお話できるチャンスでもあります。
日時 | 8/8(水)15:00~19:00 |
発表時間 | 招待講演発表30+質疑10分、一般参加者10+5分 |
場所 | ホテル内各会場 詳細は当日に配布します。 |
形式 | ファイルタイプは問わず発表スライドを作成して下さい。PCは持参願います。 |
発表申込 | 物性若手夏の学校参加登録時に受付 |
概要〆切 | 6/29(金) テンプレートは
こちらを参照。 夏の学校当日にポスターセッションの概要とまとめて参加者に配布します。 |
講師 | 所属 | 講義タイトル |
---|---|---|
大槻道夫 | 青山学院大学 理工学部 | 摩擦の素過程 ~弾性体はいつ滑るのか?~ |
内田健一 | 東北大学 金属材料研究所 | スピンゼーベック効果 |
島田尚 | 東京大学大学院 工学系研究科 | How to swim in sand |
竹内一将 | 東京大学大学院 理学系研究科 | 界面成長とランダム行列の不思議な関係 ~目で見る非平衡普遍法則~ |
永井佑紀 | 日本原子力研究開発機構 | 超伝導準古典理論における準粒子励起 |
丸山勲 | 大阪大学 大学院基礎工学研究科 | 量子多体系の数値計算における繰り込みと量子絡み合い |
大槻道夫 先生(青山学院大学 理工学部 助教)
接触している2つの物体を、その接触面に沿って互いに移動させようとするとき、それを妨げる方向に抵抗力が生じる。これを滑り摩擦という。滑り摩擦は最も身近な物理現象であり、古来より様々な研究があるが、多くの基本的問題が未解決でのまま残されている。近年、これらの研究において大きな進展がある。その1つは、摩擦のきっかけとなる運動とその伝搬、そしてそれがマクロな運動につながる過程を実験的に見ることができるようになったことである。
その例として、基盤に圧力を加えて押し付けた弾性体を考える。この弾性体を横から力を加えて押す。横からの力が最大静止摩擦力を超えない場合、弾性体は全体としての滑りを示さないスティック状態にあるが、力が最大静止摩擦力を超えると、弾性体は全体として滑りだす。ここで、弾性体の摩擦境界を調べると、系全体にわたる大きな滑りの前に、局所的な滑りの伝搬が観測される。また、その局所的な滑り領域がある大きさに達したときに、系全体がスリップ状態へと変化することが観測されている。
ここで観測される前駆的な滑りの発生は、最近の実験や様々なシミュレーションでも観測されている。ただし、こうした観測だけでは、前駆的な滑りが系全体のマクロ滑りへと変化する理由が理解できない。また、前駆的な滑りが、系全体の摩擦にどのような影響を及ぼすのかも分からない。このような疑問に答えるため、我々は弾性体の解析計算を行い、以下の結果を得た。まず、前駆的な滑りからマクロな滑りへの転移は、局所的な滑りの不安定化として理解できる。また、その安定性には弾性体の散逸や、サイズ、圧力が強く影響する。さらに、局所的な滑りの大きさによってマクロな摩擦力がスケールされることも発見した。
地震は人にとって身近かつ恐ろしい天災の1つです。地震は引っかかりと急激な滑りを繰り返す1種のスティックスリップ運動であると考えられています。スティックスリップ運動が起きるのは、スティック状態(引っかかり)ではミクロな滑りが点在しているのが、成長しマクロな滑りへと転移を起こす事でスリップ状態(急激な滑り)へ変化する為であると考えられ、粉体実験・シミュレーションでもそれは観測されています。しかし、この転移のダイナミクスに関しては良く分かっていないのが現状です。
大槻先生はこのような滑り摩擦の素過程に関する研究を行っている第一人者です。本講演では最近の大槻先生の研究である、剪断弾性体の解析による摩擦の素過程に関する研究についてお話して頂きます。皆さんの参加をお待ちしております。
内田健一 先生(東北大学 金属材料研究所 助教)
電子が有する電荷の自由度に加えてスピン角運動量の自由度も積極的に利用する「スピントロニクス」が次世代電子技術の基盤として注目を集めている。スピントロニクス技術の発展にはスピン流(スピン角運動量の流れ)とスピン圧(非平衡スピン流の駆動力)の生成技術の拡充が必須であり、これにより既存のエレクトロニクスでは成し得なかった新しい電子技術・エネルギー変換原理の創出が可能となる。
従来のスピントロニクス研究は、スピン流と電流、磁化ダイナミクス、光との相互作用に重点を置いて展開されてきたが、近年ではスピン流と熱流の相関効果にも注目が集まり始め、「スピンカロリトロニクス」と呼ばれる熱とスピンの新しい融合研究領域も創出された。このような流れの中、我々は熱流からスピン圧が生成される新しい物理現象「スピンゼーベック効果」を2008年に発見した。スピンゼーベック効果は熱電効果の一つであるゼーベック効果のスピン版の現象であり、この現象の発見により磁性体に温度差を付けるだけでスピン圧を生成可能であることが初めて実証された。スピンゼーベック効果が有する最大の特徴は、金属や半導体のみならず絶縁体においても発現するという点であり、その発現機構は既存のスピントロニクス現象やゼーベック効果とは全く異なる。本講演では、スピンゼーベック効果の検出実験や発現機構を中心に、スピントロニクスと熱の新しい関わりについて概説する。
電子は電荷とスピンの二つの自由度を持ちますが、これまでのエレクトロニクスでは電荷の自由度のみが利用されてきました。内田先生の研究の舞台であるスピントロニクスでは電荷だけでなくスピンも自在に操ることを目指します。
内田先生は電流(電荷の流れ)に対応する流れであるスピン流(スピンの流れ)について研究されています。内田先生は熱によりスピン流が生成できることを学部生の時に発見され、それは「スピンカロリトロニクス」という熱とスピンの相互作用について研究する一分野が形成される契機となりました。
講演では、内田先生の発見された新奇現象である「スピンゼーベック効果」や最近の研究についてお話し頂きます。皆さんの参加をお待ちしております。
島田尚 先生(東京大学大学院 工学系研究科 助教)
本講演では、「粉体中での“泳ぎ”」という少々奇異に聞こえそうな話題についてお話しします。
そもそもここでいう“泳ぎ”とは、ある媒質中に繰り返しの変形運動をする物体が置かれた時にその物体がある方向に変位することを指します。細菌の運動が良い例として挙げられるように、進む方向や速度、最適な泳ぎ方等を予測する事は簡単なことではなく、“泳ぎ”は物理の問題としても長く興味を持たれてきました。
一方、砂や粉に代表される粉体は条件に応じて固体的にも流体的にも振る舞うという著しい特徴があり、この性質に起因して時空間的に非常に不均一な構造をとることで系全体は更なる多様な現象を見せる事が知られています。
このような粉体層中での泳ぎというのは興味深い課題であると言えます。まだ興味が持てないという人のために、実際に日常的に砂の中を泳ぐ生物が知られている(砂漠に住むトカゲの一種)ということも強調しておきます。
このような背景から、我々は粉体中で自律運動をするモデルスイマーの泳ぎの特性についてイベントドリブン型シミュレーションを用いて解析しました。系統的なシミュレーションから、推進速度と移動効率についてそれぞれ別の最適な泳ぎ周波数が存在することが分かりました。これらの最適点は粉体の固化-流動化-気化の転移をスイマーがもっとも都合良く推進に活用できるような条件に対応していることを説明し、時間があれば方向制御等のより込み入った最近の話題についてもお話ししたいと思います。
参考文献)
T. Shimada, D. Kadau, T. Shinbrot, and H. J. Herrmann, PRE 80, 020301(R) (2009)
島田先生は、「粉体中での泳ぎ」という、粉粒体物理と生物たちの行動を結びつけようという独創的な研究を行なわれました。粉体中で泳ぐ生物の例として、砂漠に住むトカゲが日常的に砂の中を泳ぐことが知られています。
島田先生は、粉体中の泳ぎのモデルとして、硬いバネで結ばれた2つの部位(頭部、尾部)が周期的に膨張収縮振動しながら周りの砂粒子と弾性衝突相互作用する物理モデル(pushme-pullyou model)を提案し、詳しいシミュレーションを行われました。
本講演では、推進速度と移動効率についてそれぞれ最適な泳ぎ周波数が存在することと、これらの最適点が、粉体の固化-流動化-気化の転移をスイマーがもっとも都合良く推進に活用できるような条件に対応していることを説明して頂きます。時間があれば方向制御等のより込み入った最近の話題についてもお話しして頂きます。
竹内一将 先生(東京大学大学院 理学系研究科 助教)
マクロな非平衡系であまねく成り立つ普遍法則は残念ながら知られていない。しかし、対象とする現象を限ってみると、時に驚くべき普遍性が出現する。本講演では、そうした非平衡普遍法則の中でも近年急速に理解が深化した、成長界面が示す揺らぎの普遍法則について紹介する。
界面成長は、紙に浸み込むインクの境界やジャムに生えたカビの縁など身の回りに見聞きする現象から、固体生成などの材料工学まで、様々な所に例を見出せる非平衡現象である。そして多くの場合、局所的な相互作用から凸凹の荒い界面が生じることがご想像頂けると思う。そこで、高精度測定が可能な実験系として液晶の乱流界面の成長に注目し、その凸凹具合を測ってみると、驚くべきことに、凸凹の揺らぎはランダム行列の最大固有値分布にぴたりと一致することが判明した。これは実は、界面成長の数理模型で近年厳密に導出された分布とも一致し、単純な界面成長には揺らぎ分布(や他にも様々な物理量)が従う普遍法則が存在することを意味している。この普遍性はKardar-Parisi-Zhang(KPZ)ユニバーサリティクラスとして知られており、ランダム行列との不思議な関係や、界面の形状によって普遍法則が変わるなどの興味深い性質が理論的に明らかにされ、実験でも確認されている。講演では、実験事実とその背後にある数理、そして非平衡普遍法則やランダム行列の統計則が実験として目で見える楽しさを中心にお話をしたい。
参考文献(オープンアクセス):
K. A. Takeuchi, M. Sano, T. Sasamoto, and H. Spohn, Scientific Reports (Nature) 1, 34 (2011).
界面成長という言葉を聞き慣れない方も多いのではないでしょうか?界面成長は異なる2相の境界の移動を指し、典型例には多孔性媒質中の流体の挙動、バクテリアコロニーの広がり、結晶成長などがあります。これらを対象とする研究において数多くの数理模型が提唱され、計算機シミュレーションが盛んに行われてきました。これらの研究に共通する目的の一つとして、界面の凹凸に潜む数理的構造を明らかにすることが挙げられます。
今回ご講演いただく竹内先生は、界面の中でも液晶の2種類の乱流状態の界面に着目する独創的な実験を行われました。そして、その凹凸が数理模型から導かれるスケーリング則に従うことを高精度で実証することに成功され、さらに、凹凸の分布が数理模型の厳密解に一致することを明らかになされました。
先生には、実験結果と高度な数学によって導かれる結果がいかに一致するのかということをお話いただきたいと思います。界面成長は視覚的にわかりやすい現象ですので、背景知識のない方も気軽にご参加ください。
永井佑紀 先生(日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター)
本講演では、計算負荷の軽さと物理的描像の明瞭さから実験結果の解析に大きな威力を発揮する、超伝導準古典理論についてレビューを行う。また、最近我々が開発したメゾスコピック準古典計算手法とその応用としての超伝導ナノアイランド系の研究について紹介する予定である。使われている近似は、光学における幾何光学近似(Eikonal近似)を超伝導波動関数に適用したものに相当するため、習得することにより準粒子が軌跡を描いて飛んでいき物理量にどう影響を与えるのかが想像できるようになる。
超伝導体の性質、特に超伝導発現機構等を明らかにするためには、一様な系を調べるよりも非一様な不均一系(磁場下や接合系、メゾスコピック系)を調べる方が有力なことが多い。なぜならば、超伝導の性質を反映する準粒子が、系の不均一性によって生じうるからである。準粒子は、超伝導波動関数の位相に敏感である。その挙動は、超伝導秩序変数のみに着目する現象論的なGinzburg-Landau(GL)理論では取り扱うことができない。一方、Bardeen-Cooper-Schrieffer(BCS) 理論をベースとした微視的理論であるBogoliubov de-Gennes (BdG) 理論では、実際の物質を対象とした不均一系のモデル計算には膨大な計算機資源を必要とする。準古典理論は、この両者の中間の領域を扱う理論である。
第二種超伝導体では、ある一定の大きさの磁場を印加すると超伝導を部分的に破壊し、磁束が侵入する渦糸状態が存在します。渦中心では超伝導ギャップが消滅しているため、そこに準粒子が束縛される低エネルギー状態が存在し、物理量に大きな影響を与えます。この他にもマヨラナ粒子や奇周波数クーパー対等の最近のトピックスとも絡んでいるため、近年渦糸に関する研究が盛んに行われています。
永井先生は理論的な視点から渦糸電子状態の研究をされています。本講演ではメゾスコピック超伝導体に適用出来る準古典計算方法と、その応用として超伝導ナノアイランド系の研究についてお話をして頂く予定です。興味を持たれた方は是非聞きにきてください。
丸山勲 先生(大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任助教)
解析的にも数値的にも、万人が解けるわけではないのが量子多体問題です。それは、授業で解ける問題のみを見てきた学生のために残された、挑戦すべき課題と言えるでしょう。そんな挑戦が成功したと言える例が既にあります。それは、希薄磁性合金における抵抗極小現象、つまり近藤効果です。一見解けそうに見えても、簡単には解けないのが近藤不純物問題です。しかし、さまざまな理論家の努力を経て、数値的にはWilsonによる数値繰り込み群が成功し、その後、解析的には、Bethe仮設により厳密解が与えられました。近藤効果は古くから知られる現象ですが、量子ドット系において近年も注目を浴びています。近年の数値計算法の一つである動的平均場理論を理解する上でも、近藤効果は重要です。
この問題の難しさは、絶対ゼロ度で形成される近藤一重項状態の量子絡み合いが、単純な一電子(平均場)近似では取り扱えなかった事にあると言えます。この量子絡み合いを正確に取り扱う事が最近の数値計算の課題となっています。発表では、その課題を克服するための密度行列繰り込み群とその拡張における実空間繰り込みに触れながら、何故近藤不純物問題は解けたのか、何故一般の量子多体系の数値計算が難しいのかについて迫りたいと思います。
強相関電子系を研究する上で必ず通らなければならないのが量子多体問題ですが、実際にはこれを完全に解くことは難しいです。重い電子系・量子ドットの基礎となる近藤問題もまた量子多体問題の一種でしたが、さまざまな理論化によって数値的、そして解析的な解法が研究されてきました。
丸山勲先生は、量子絡み合いと幾何学的位相による密度行列繰り込み群の新展開について研究されています。本講演では何故近藤不純物問題は解けたのかや量子多体系の解法についてお話していただく予定です。皆さんの参加をお待ちしております。
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