量子固体の結晶成長
野村 竜司 先生
東京工業大学 大学院理工学研究科 物性物理学専攻
分野:超低温
概要
結晶成長の物理の理解にヘリウム結晶が大きな役割を果たしてきたことは、あまり知られていないかもしれない。自然界に存在する雪の結晶や水晶などと、極低温において超流動液体から成長する量子固体との間には、共通する普遍的物理が存在する。
液体が超流動状態にあるためヘリウムの結晶は非常に素早く成長し、結晶成長一般の物理的基礎を高精度の実験で確かめることが出来るのである。例えば、結晶形の最低エネルギー状態(平衡形)はどの様な形かという問題を、緩和時間が何100年もかかる様な物質で調べることは難しいが、ヘリウムを用いれば1秒以内に緩和が完了するということが起こりえるのである。ラフニング転移とステップ自由エネルギー、ステップ間相互作用と微斜面、2次元核生成、螺旋成長、樹枝状成長などの基礎的現象が、ヘリウムにおける実験でどの様に明らかにされてきたかを説明する。
一方で素早い結晶成長は、ヘリウム結晶のみで観測可能な特異な現象も生む。結晶成長・融解を繰り返しながら界面を伝播する結晶化波、Kelvin- Helmholtz不安定性やFaraday不安定性など、通常は液体表面でのみ存在すると思われがちな界面現象がヘリウム結晶には存在する。
その他にも、界面における超音波の完全反射と界面質量、音響放射圧による結晶成長、負結晶の運動、多孔質中での間欠的成長、一軸性応力による結晶融解とグリンフェルド不安定性、量子核生成など興味深い界面現象が存在するので時間の許す限り紹介したい。
世話人からのメッセージ
野村先生は、主に量子固体の研究をされています。
4Heはその小さな質量と弱い原子間相互作用のため相図に3重点をもたず、液体のまま絶対零度まで冷却でき、約2Kで相転移し、粘性のない超流動液体となり、これを約25barまで加圧するとhcp構造の固体4Heが出来ます。通常の物質の結晶成長には界面への物質輸送、界面での結晶化カイネティックス、結晶化潜熱の輸送など、3つの過程が介在するが、超流動液体から生成する4He結晶では、バルク中の物質及び熱輸送過程が律速とならず、表面での結晶化過程を詳細に調べることができます。
講義では、量子固体の物理について詳しく話していただく予定です。