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数理物理の新展開 ―ランダム行列とSLE―

香取 眞理 先生

中央大学 理工学部 物理学科

分野:統計力学分野

概要

ランダム行列とは成分が乱数で与えられる行列のことである。ただし、行列に対称性を課す。そうするとすべての成分が独立という訳にはいかなくなるが、それでもなるべくランダムに各成分を生成させることにする。例えば、サイズ N のランダムなエルミート行列は N の2乗個の独立な実乱数を用いて生成できる。エルミート行列なのでユニタリー行列で対角化できて N 個の実固有値が定まる。行列がランダムなので N 個の実固有値もランダムだが、それらはもはや独立ではない。N 個の実固有値を直線上の N 粒子の位置と見なそう。すると粒子間に(距離に反比例する)斥力が働く 1 次元 N 粒子系が得られる。ランダム行列理論は「独立な乱数から強く相互作用する系を生み出す理論」である。

複素平面の実軸の上側を上半平面という。原点を出発点とする1本の(有限の長さの)曲線を上半平面に描く。上半平面から、いま描いた曲線を取り除く。曲線がループを持つときにはそのループで囲まれた領域も一緒に取り除くことにする。残りは当然、上半平面の「部分」になる訳だが、その「部分」を元の上半平面全体に写す(つまり元に戻す)共形変換(等角写像)が必ず存在する。これをリーマンの写像定理と言う。この変換の逆を考えよう。すると、元々は何も無かった上半平面に曲線を生み出すことができる。この原理をブラウン運動の理論と組み合わせたのが、 2000 年に発表された Schramm-Loewner Evolution (SLE) である。フラクタル物理学や相転移・臨界現象の統計物理学で重要な役割を果たす様々な曲線を SLE で自在に生成できることが、この 10 年の間に分かってきた。(2006 年に Werner は SLE と共形場理論の研究でフィールズ賞を受賞した。)

ランダム行列と SLE を題材にして 21 世紀の数理物理を論じたい。

世話人からのメッセージ

数理物理という言葉に、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。何やら難しい数学を使ったり、物理モデルを厳密に解析したり、といった側面に取っ付き難さがあるかもしれませんが、今回は「お絵描き」を楽しみながら理解することが出来るトピックとして「ランダム行列」と「シュラム・レヴナー方程式 (SLE)」についての入門的なお話を、物理と数学の境界領域でご活躍なさっている香取眞理先生にお願いしています。

いずれも普遍的な手法として様々な分野への応用が期待されており、近年の発展著しいトピックです。みなさんの研究分野でも役立つかもしれませんよ??是非この機会に最先端の研究の雰囲気を感じてみてください!

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