54回 物性若手夏の学校 2009 トップはじめにプログラム会場案内参加費用各種データ協賛・後援スタッフ紹介

原子と光の基礎から量子情報処理実験まで

上妻 幹旺 先生

東京工業大学大学院 理工学研究科 物性物理学専攻 准教授

分野:冷却原子系、量子光学

概要

光、原子を用いた実験に興味を持ちながらも、それらの研究分野になかなか飛び込めない若手研究者が多数いる。分野特有の記号、符牒言語といったものが分野の境界を越える上での壁となっているようである。例えば、「うちは2S1/2->2P3/2ですが、そちらは1S0->3P1なので、デコヒーレンス時間が長くていいですね」といった会話がよく行われる。実はごく簡単なことを表現しているのだが、記号の定義を知らなければ全くもって意味不明である。

本講義では、まず水素、アルカリ原子、ヘリウムに代表される2電子系原子といった代表的な原子について、そのスペクトルの起源、様々な記号等をわかりやすく説明する。原子そのものについての理解が得られた後、原子の電場、磁場、電磁波に対する応答について述べる。光トラップ、磁場トラップといった原子を操作するための基本ツールへの理解が得られるであろう。ところで電磁波、つまり光は、量子化をすることができる。となれば、顕著な量子性をもつ光を利用することではじめて可能になる原子制御といったものもあるはずである。そこで光の量子化、量子的な光とは何か、についての説明を行う。

これら原子・光の基礎についての説明が終了したのち、これらを用いた最先端の物理研究について解説を行う。原子アンサンブルを用いた量子メモリ、原子−光間におけるエンタングルメント生成、単一原子Cavity QED、量子情報処理を利用した凝縮体物性の探索といった実験研究を紹介する。ここにきて、これらの研究を理解する上で必要な知識がすでに自分のものとなっていることに気がつくであろう。

世話人からのメッセージ

1995年のRb原子とNa原子のボース=アインシュタイン凝縮実現以来、冷却原子系に関する実験分野の発展には目に見張るものがあります。近年では冷却原子系そのものの研究だけでなく、量子光と組み合わせた量子通信用デバイス実現の試みなど、他分野への応用も増えています。

今回講義をして頂く上妻先生は、量子光と冷却原子系に関する幅広い研究(冷却原子・単一光子間のエンタングルメント生成、光原子間相互作用を用いた量子測定の可逆性の検証、量子光・冷却原子系間の状態転写など)をされている第一線の研究者です。講義ではこれら最先端の研究を、初歩の初歩から解説して頂く予定です。光・原子系物理の基礎から最先端までを世界トップクラスの研究者から学べるまたとない機会です。お見逃しなく!

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