集中ゼミ

概要

集中ゼミでは、講師としてお招きした先生方にご自身の研究について教えていただき、各分野の最新のトピックをわかりやすく学べることが特徴です。

事前公開の概要やテキストを参考にして、興味のあるテーマを選んでください。わからないことや気にかかること、遠慮することなく学生側からも積極的に質問をして活発な議論を展開しましょう!

オンライン開催における実施方法

集中ゼミは、1日目と3日目の午後にご自身の研究について3時間の講演をしていただきます。それぞれ6つずつ開講されます。

講義と同様、Zoomのミーティング機能を用いて行います。スライド、板書を画面共有の機能を用いて共有しながら行います。

詳細は後ほどこのサイト、メールまたは参加者用Slackでお知らせします。

第67回集中ゼミ講師一覧(敬称略)

集中ゼミ1(8/2,1日目午後1 13:00-16:00)
分野 講師 所属 講義タイトル
A 岡本
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授 強相関電子系の超高速光誘起相転移
B 小澤
知己
東北大学 材料科学高等研究所 准教授 人工量子系の物性物理とトポロジカル物性
C 日置
友智
東北大学 材料科学高等研究所 材料物理グループ 助教 磁化ダイナミクスのコヒーレンスとスピントロニクスの展望
D 柳澤
実穂
東京大学 大学院総合文化研究科 先進科学研究機構 准教授 細胞を擬2次元膜で包まれたミクロ3次元液滴として理解する
E 加藤
晃太郎
名古屋大学 大学院情報学研究科 数理情報学専攻 助教 量子スピン系における量子情報理論的アプローチ
F 大野
圭司
理化学研究所 開拓研究本部 専任研究員 半導体中の局在スピンとその量子技術への応用
集中ゼミ2(8/4,3日目午後2 16:00-19:00)
分野 講師 所属 講義タイトル
A 佐藤
琢哉
東京工業大学 理学院 物理学系 教授 光で磁性体を超高速に制御する
B
法称
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 准教授 実験数理物理学入門
C 與儀
琉球大学 理学部 物質地球科学科 准教授 核磁気共鳴の基礎と希土類化合物研究への応用
D 坂上
貴洋
青山学院大学 理工学部 物理科学科 教授 クロマチンの物理
E 西口
大貴
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 助教 アクティブマター物理学:集団運動の秩序とゆらぎ
F 羽田野
直道
東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 教授 非エルミート量子力学入門

分野についてはこちらを参照してください。

集中ゼミ1アブストラクト

強相関電子系の超高速光誘起相転移

岡本 博 先生
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授

可視光を照射したとき固体の電子相が一変する現象“光誘起相転移”は、フェムト秒レーザーパルスを用いたポンプ-プローブ分光により盛んに研究されてきた。その対象として注目されてきた物質群に強相関(電子)系がある。強相関系では、光照射によって生じた電子励起や光キャリアが強い電子間相互作用を通して周囲の電子系を変化させることにより、高速かつ高効率の光誘起相転移が起こる。最近では、中心周波数が約1テラヘルツである単一サイクルの電磁場=テラヘルツパルスや数サイクルの電磁場として得られる中赤外パルスを励起光に用いて、強相関系の電子状態を制御しようという研究も行われるようになってきた。

本セミナーでは、最初に、強相関系である遷移金属化合物や有機分子性物質で生じるいくつかの典型的な光誘起相転移(光誘起絶縁体-金属転移や中性-イオン性転移等)について解説する。その後、テラヘルツパルスの電場成分を用いた光誘起相転移の研究を概説する。また、中赤外パルスを用いた分子振動励起による相転移やフォノンドレスト状態の観測等の最新のトピックスについても紹介したい。

人工量子系の物性物理とトポロジカル物性

小澤 知己 先生
東北大学 材料科学高等研究所 准教授

光と物質の相互作用をコントロールすることで実現される人工量子系について多体物性・トポロジカル物性の観点からの入門的な講義を行う。人工量子系と言ってもその幅は広く、光でコントロールされた原子を扱う冷却原子系、イオントラップや光ピンセット列から、光そのものを対象に物性物理の研究を行う光共振器列や導波路列、また光と物質の複合粒子である励起子ポラリトン系などさまざまである。人工量子系の物性物理の研究では、調べたい模型・現象を(近似的に)実現するような人工量子系の実現を目指す「量子シミュレーション」の形を取ることが多い。量子シミュレーションが物性物理にどういった知見をもたらすのかなど人工量子系研究のモチベーションを伝えたい。また、具体的な研究例として人工量子系でのトポロジカル物性の研究の進展も解説する。量子ホール効果に代表されるトポロジカル物性に関連した模型・現象の量子シミュレーションがさまざまな人工量子系で近年活発に議論されている。トポロジカル物性はもともとフェルミオンである固体電子系を中心に研究されてきたが、多くの場合ボソンを扱う人工量子系では固体電子系とは異なった現象が見られる。トポロジカル物性とレーザーを組み合わせたトポロジカル・レーザーや4次元以上の高次元物理をシミュレートできる人工次元の方法など人工量子系ならではのトポロジカル物性研究の最前線をお伝えしたい。

磁化ダイナミクスのコヒーレンスとスピントロニクスの展望

日置 友智 先生
東北大学 材料科学高等研究所 材料物理グループ 助教

電子のスピン角運動量を利用するスピントロニクスでは、磁性体中の複数の素励起が織りなす相互作用を用いることで、磁気メモリや熱電変換素子などに有用な新現象を見出してきた。その中心にある素励起がマグノンである。マグノンは、磁化の歳差運動が波として磁性体中を伝搬する磁気秩序の素励起であり、マグノンと伝導電子スピン、フォトン、フォノンなどとの間の相互作用により多くのスピントロニクス現象が理解されてきた。マグノンには数と位相の自由度があるが、マグノンの位相は従来のスピントロニクスでは活用されていなかった。これは、ギルバート緩和と呼ばれる磁化ダイナミクスの緩和機構により、マグノンの位相コヒーレンスが数百ナノ秒で消失してしまうためである。しかし近年のパルスレーザーを代表とした高速測定技術の進展により、ごく短い時間での磁化ダイナミクスの励起や観測、時系列パルスの作製が可能となってきた。これにスピントロニクスが開拓してきたスピン角運動量の流れ「スピン流」の学理を融合することでマグノンの位相コヒーレンスを利用した新たな研究領域が創出されると期待されている。本集中ゼミでは、まずマグノンの定式化や関連する現象群について概説した後に、マグノンの密度行列を測定可能にするマグノントモグラフィ法について紹介し、現在の実験研究の状況までを展望する。

細胞を擬2次元膜で包まれたミクロ3次元液滴として理解する

柳澤 実穂 先生
東京大学 大学院総合文化研究科 先進科学研究機構 准教授

生命現象の根底には数多くの物理法則が存在し、それはE.シュレーディンガーをはじめとする数多くの物理学者の興味を集めてきた。本講演では、生命の最小単位である細胞を、擬2次元膜で覆われたミクロ3次元液滴として捉え、細胞スケールの生体分子集合体が示す物性研究から生命の物理的理解を目指すアプローチについて紹介したい。対象とする主な現象は、細胞内においてタンパク質1分子が示す分子拡散や、タンパク質集団が示す相分離やゲル化などの相転移である。こうした現象において通常想定するのは、目に見えるマイクロリットル量以上の体積スケール(以下、バルクと呼ぶ)であるが、1細胞の体積は高々フェムト~ピコリットル量と遥かに小さい。これは、多様な分子からなる細胞内では、同種分子の数が少なく統計的に扱いにくいことを意味する。さらに、体積に対する表面面積の比が大きく、細胞表面を覆う膜の影響が支配的となることも示唆している。我々は、こうした微小体積や膜界面の効果をシンプルな人工細胞を用いて分子拡散や相転移現象を解析し、バルク系とは異なる挙動が細胞スケールで生じることを見出した。本講演では、こうしたミクロ系の特異な物性について、従来のバルク系と対応づけながら説明する。

量子スピン系における量子情報理論的アプローチ

加藤 晃太郎 先生
名古屋大学 大学院情報学研究科 数理情報学専攻 助教

量子情報分野の発展に伴い、近年では情報エントロピーやエンタングルメント、量子誤り訂正符号といった、情報理論由来の概念や手法が、基礎物理学的な観点からも注目されるようになってきた。中でも、トポロジカル相に代表される非臨界系の量子相の物理は、そうした情報理論的な解析手法が早期から取り入れられてきた研究領域である。

本集中ゼミでは、量子情報理論の基礎的な概念の解説から始め、局所ハミルトニアン系の基底状態に対する応用を紹介することで、量子多体系に対する量子情報的なアプローチの一端に触れてもらうことを目標とする。応用例としては、トポロジカル量子コンピュータとの繋がりもある、トポロジカル秩序相を中心的に取り上げる。

半導体中の局在スピンとその量子技術への応用

大野 圭司 先生
理化学研究所 開拓研究本部 専任研究員

半導体中の伝導電子や正孔を3次元的に閉じ込めた構造は離散的エネルギー準位を有する。量子ドット素子はこの閉じ込め構造にトンネル接合を介して電極を取り付けたものであり、その人工原子的振る舞いなどが電気伝導特性により研究されてきた。なかでも電子スピンに着目した研究は半導体量子ビット研究として大きく発展している。電子の閉じ込めは微細加工技術による他、半導体中の単一の不純物を用いることもできる。

量子ドット素子の研究は比較的加工が容易なGaAsなどの化合物半導体から始まりその後Siに移行している。Siへの移行はより長いスピンコヒーレンス時間が得られるほか、既存のシリコン技術との整合性がよくシリコン集積回路との良好な接続性が期待できるなど様々な利点がある。

この講義においてはこれまでに私がかかわってきた半導体量子ドット構造の実験を中心に、その物理と応用について話したい。応用としては電子スピンの長いコヒーレンス時間を生かした量子ビットとしての応用を紹介する。具体的にはGaAs量子ドット素子の構造とその特性、特にその電子スピンに注目した仕事を紹介する。その後SiのMOSFET構造をベースとした量子ドット素子とその特性、特に電子スピン量子ビットとしての応用、なかでも高温での量子ビット動作や、単一量子ビットを用いたシミュレーション実験を紹介する。シミュレーション実験は運動先鋭化および量子熱機関を扱う。

集中ゼミ2アブストラクト

光で磁性体を超高速に制御する

佐藤 琢哉 先生
東京工業大学 理学院 物理学系 教授

物理学者マイケル・ファラデーは電磁誘導(ファラデーの法則)の発見でよく知られている。それとは全く別に、彼の名前を冠した「ファラデー効果」という現象がある。1845年、ファラデーが磁性体で磁場を印加した鉛ガラスに直線偏光した光を当てたところ、偏光の向きが回転して出てきたのを見出したのがその発端である。このファラデー効果の発見をきっかけとして、光を用いて磁性体の性質を探る学問(磁気光学)が発展した。電気と磁気の相互関係のように、磁気が光に影響を及ぼしうるなら、この逆効果として光も磁気に影響を及ぼしうるのでは、と考えるのは自然なことである。しかし当時の光源は弱すぎて観測は成功しなかった。ファラデーの時代から100年以上経った1960年代には、レーザーが発明されて、ようやくファラデー効果の逆効果、すなわち逆ファラデー効果の観測が可能になった。さらに現代では、人類はフェムト秒超短レーザーという超強力な光源を手にいれた。

本ゼミでは、この新しいレーザー光源を用いてファラデーのやり残したこと、「光で磁性体を超高速に制御する」への挑戦について講演する。

実験数理物理学入門

桂 法称 先生
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 准教授

ネットで検索する「調べ学習」は、大学以降はとかく悪く言われがちだが、果たしてそんなにいけないことなのだろうか?何事も中途半端なのがいけないのであって、やるからには徹底的に調べればまた話は別だろう。そんな信念のもと、インターネット上のリソースである On-Line Encyclopedia of Integer Sequences (OEIS) [1]や Inverse Symbolic Calculator (ISC) [2]などを使って研究を進めた結果、思いがけない発見があったお話を紹介したい。講義の前半では、ハードコア粒子やダイマーの古典統計力学系を題材に、数値計算結果から解析的な表式を予想した先行研究の、成功例や失敗例を紹介する。後半では、私自身が量子スピン系やフェルミオンの多体系のモデルを調べた中で遭遇した奇跡的な体験を紹介する。

講義では、古典統計力学における転送行列法の計算機での実装方法や、フェルミオン系や超対称性量子力学の基礎など、関連する話題の技術的な部分についても丁寧に解説する予定である。また、時間が許せば、このようなアプローチで取り扱えそうな未解決問題についてもいくつか紹介する。さあ君も、計算機とインターネットを武器に物理の問題を解析して、第二のラマヌジャンを目指そう!

[1] https://oeis.org/

[2] http://wayback.cecm.sfu.ca/projects/ISC/ISCmain.html


核磁気共鳴の基礎と希土類化合物研究への応用

與儀 護 先生
琉球大学 理学部 物質地球科学科 准教授

核磁気共鳴(NMR)は微視的視点から物質の電子状態を研究できる測定手法の一つである。NMRの最も多い利用例は共鳴スペクトル測定による有機化合物の分子構造解析だと思われる。これは原子核周りの微視的電子状態が分子構造により異なり、その結果として共鳴周波数が変化することを利用している。固体物性の研究においても、スピン磁化率など静的磁気特性の研究のために共鳴スペクトルの測定が行われている。また、NMRは緩和時間の測定を通して系の動的な性質(低エネルギー励起)に関する情報を得ることもできる。例えば、磁性体における磁気揺らぎや超伝導体のギャップ構造などの研究に用いられている。

本集中ゼミでは固体物性研究への応用を視野に入れた核磁気共鳴の基礎について述べた後に、Euを中心とした希土類化合物への応用例を紹介する。静的磁気特性の測定例として、NMRスペクトル解析による磁気構造の研究について紹介する。具体的には、我々が最近行ったEu化合物の磁気秩序状態におけるヘリカル構造と伝播ベクトルのNMRによる同定について説明する。また、NMRでは核四重極能率を持つ原子核を用いることにより電気特性についても検出可能である。その例として、希土類元素の価数状態についてリガンド核の電場勾配の変化から見出した例について紹介する。最後に、動的特性の測定例として、Eu化合物の価数状態と磁気揺らぎに関して紹介する。

クロマチンの物理

坂上 貴洋 先生
青山学院大学 理工学部 物理科学科 教授

細胞内でのDNA、クロマチンの振る舞いについて、物理学の視点から講義する。

生物の遺伝情報は塩基配列という形でDNAに蓄えられており、細胞内におけるDNAやクロマチン(DNAとタンパク質の巨大な複合体)の動態は遺伝子発現と密接に関連する。DNAの構造には明確な階層性が見られ、その振る舞いはスケールに依存する。例えば、たんぱく質との相互作用の舞台となる数十塩基対のスケールでは、二重螺旋構造を反映した弾性的な振る舞いを示す。他方、サブミクロン以上のスケールでは、屈曲性に富む高分子の振る舞いを示す。これらのことを念頭におき、DNAやクロマチンの多様な振る舞いと、そこに見られる普遍的な法則について理解を深めることを目指す。

アクティブマター物理学:集団運動の秩序とゆらぎ

西口 大貴 先生
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 助教

アクティブマター物理学の興味の対象は、自己駆動する粒子の集団に代表されるような、個々の構成要素スケールでエネルギーの注入と散逸がおこなわれる本質的に非平衡な系です。たとえば生き物からなる群れを一つの物体(マター)とみなし、そこにどのようなマクロ法則や物性が発現するのかを、非平衡統計物理学の精神で探究します。統計物理学の一分野であるアクティブマター物理学は、長い間、理論が実験に大きく先行し、現実の実験系との乖離がありました。しかし近年の実験の進展により、実験と理論が相補的に発展するようになり、発展に拍車がかかっています。またその適用範囲も拡大し続けています。

この集中ゼミでは、バクテリアや自己駆動コロイドの集団運動の実験を主な題材として、集団運動の標準模型やその数理の理解を深めていきます。アクティブマターの数理的性質として、たとえば平衡系では禁じられる2次元での長距離配向秩序の実現や、巨大な密度ゆらぎ、長距離の特異な密度相関、集団運動中を伝わる非等方な音波などがあります。また、アクティブマター特有の不安定性により配向秩序が乱れ、ミクロな低レイノルズ数の世界であるにもかかわらず乱流的な挙動が発現することも(むしろ多く)あります。これらの理論と実験を紹介します。

せっかくの夏学なので、実験家としての西口の視点から実験系の設計思想などについて語ってみたり、アクティブマター物理学の将来像なんかについても、気楽に語り合えたらいいなと思っています。

非エルミート量子力学入門

羽田野 直道 先生
東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 教授

ハミルトニアンを非エルミートにした量子系が盛んに議論されるようになりました。本ゼミでは、非エルミート性が(1)開放量子系の有効ハミルトニアンに現れる場合、(2)系全体に現れる場合、(3)他の模型を変換して現れる場合のそれぞれについて入門的な内容を概観します。

(1)はエルミート系の一部分が有効的に非エルミートになる場合です。例として、量子細線が接続された量子ドットが挙げられます。量子細線との結合のために量子ドットのエネルギーが保存しないのが非エルミート性の原因です。実験では系に測定器を結合させるため、実験系は必ず非エルミート系です。

(2)では実エネルギー固有値について考えます。系全体が非エルミートでも、PT対称性のような物理的対称性のみを課すと実固有値が得られる場合があることを示します。

(3)では(d+1)次元の古典統計力学系からd次元の量子力学系への変換を例に、模型の変換により非エルミートハミルトニアンが得られることをみます。

多くの理論はエルミート系を対象としています。対応する実験系を実現するためには、(1)の理由で測定が系をできるだけ乱さないように特別な注意が必要です。一方、非エルミート量子力学では最初から測定系が注目系と強く結合している場合を扱うため、将来的に実験系の実現にも変革を起こすと期待しています。