全体プログラム
各日夕食後に懇談会を予定。7/31 (木)夕食後に談話会を予定。
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講義
物性若手夏の学校のメインイベントであり、第1回から連綿と続く企画です。
それぞれの専門分野において研究・教育の第一線で活躍されている先生方を講師に迎え、 2.5時間×3日の長時間をかけて、基礎的な事項からやや発展的な内容をお話しいただきます。
専門分野に近い講義を受ける、未知の分野に挑戦してみる、 複数人で役割分担しノートをシェアし合うなど自由な方法でお聞きください。
第70回講義招待講師一覧(敬称略)
分野 | 講師 | 所属 | 講義タイトル |
---|---|---|---|
A | 中島 秀太 | 大阪大学 量子情報・量子生命研究センター | 中性原子量子コンピュータの基礎‐量子エレクトロニクス概論‐ |
B | 古崎 昭 | 理化学研究所 | トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類理論 |
C | 大原 繁男 | 名古屋工業大学 物理工学科 | 結晶の対称性と物性 |
D | 畠山 哲央 | 東京科学大学 地球生命研究所 | 理論生物物理学入門 |
E | 中川 大也 | 東京大学 大学院理学系研究科 | 開放量子系の非平衡物性物理 |
F | 田島 裕康 | 九州大学 大学院システム情報科学研究院 | 非対称性のリソース理論の最近の発展:基礎と応用 |
集中ゼミ
集中ゼミでは、講師としてお招きした先生方にご自身の研究について教えていただき、 各分野の最新のトピックをわかりやすく学べることが特徴です。
事前公開の概要やテキストを参考にして、興味のあるテーマを選んでください。 わからないことや気にかかること、遠慮することなく学生側からも積極的に質問をして 活発な議論を展開しましょう!
第70回集中ゼミ招待講師一覧(敬称略)
分野 | 講師 | 所属 | 講義タイトル |
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A | 笠 真生 | プリンストン大学 | 量子多体系におけるエンタングルメント (オンライン講義) |
B | 松井 千尋 | 東京大学 大学院数理科学研究科 | 量子系の対称性と非熱化現象 |
C | 松永 悟明 | 北海道大学 大学院理学研究院 | 低次元導体の電子物性 |
D | 足立 景亮 | 理化学研究所 兼任 生命機能科学研究センター | タンパク質相分離の凝縮系物理 |
E | Tan Van Vu | 京都大学 基礎物理学研究所 | 最適輸送理論を用いた非平衡物理の探究 |
F | 中田 芳史 | 京都大学 基礎物理学研究所 | 量子カオスと量子情報 -複雑な時間発展と情報復元の非自明な関係- |
分野 | 講師 | 所属 | 講義タイトル |
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A | 永井 佑紀 | 東京大学 情報基盤センター 学際情報科学研究部門 兼担 新領域創成科学研究科 | 機械学習と物性物理学:AIは何ができて何ができないのか |
B | 古谷 峻介 | 埼玉医科大学 医学部教養教育 | 量子臨界点から眺める量子スピン鎖のトポロジー |
C | 好田 誠 | 東北大学 工学研究科 | 半導体の永久スピン旋回状態とその応用 |
D | 谷 茉莉 | 京都大学 大学院理学研究科 | ひもやシートが作り出すかたちと力学 |
E | 曽根 和樹 | 筑波大学 数理物質系 | トポロジカルアクティブマター:生物と固体物理の協奏 |
F | 竹森 那由多 | 大阪大学 大学院理学研究科 | 量子情報科学と物性物理 |
分科会
分科会は、おおむね分野ごとに分かれて希望者による口頭発表(発表10分+質疑応答5分)を行う企画です。 口頭発表では、短い持ち時間の中で、研究成果の要点を簡潔に分かりやすく話すことが重要になります。 また、アブストラクトでは、限られた紙面に発表内容を過不足なくまとめることが必要です。 学会や研究会の口頭発表と同じ形式ですので、 物理学会などへ向けた発表練習の場として大いに活用してください!
企画概要 | 分野ごとに分かれての口頭発表(発表10分+質疑応答5分) |
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対象者 | 発表は希望者のみ。聴講は全員可能。 |
事前提出物 | 発表内容を簡潔にまとめたアブストラクト |
当日準備物 | 発表スライド |
発表者にとって
分科会の特徴としては、以下のような点が挙げられます:
- 同世代の聴衆が多いので、気軽に発表の経験を積める。
- 研究成果が十分に出ていない人も歓迎!
- 大まかな分野分けのため、聴衆の多くは専門外。
このように、学会などと比較すると、発表者として積極的に参加しやすい企画となっています。
まだ発表経験の少ない人にとっては、分科会での発表は貴重な経験となることでしょう。今後の自信や発表技術の向上につながるはずです。まだ研究テーマが決まっていないという人も、関心を持った論文のレビューなどでも構いませんので、ぜひ積極的に発表してみてください!
また、分科会はグループセミナーよりも多くの人に発表を聴いてもらえる機会でもあります。発表経験が豊富な人でも、自分の研究内容を広くアピールする場としてぜひ活用してください!
聴き手にとって
分科会での分野分けは、学会のそれと比べて非常に大まかなものとなっています(たとえば、日本物理学会での発表は100を越える分野に分けられていますが、夏学は6分野程度です)。そのため、自分の研究に関わりはあるものの普段は聴くことのないような研究テーマに出会うことができるはずです。未知のテーマに触れることで、いつもと違う側面からの刺激が得られるのではないかと思います。
上手な人の発表をたくさん聴いて、発表技術を盗んで自分の発表に活かすこともできるでしょう。また、同年代の発表者ばかりですので、気になったところはぜひ積極的に質問していきましょう。せっかくの機会ですので、どんどん研鑽を積んでいきましょう!
グループセミナー
グループセミナー (GS) とは、5人程度の学生が集まって1グループを作り、 セミナー形式で自分の研究内容を発表し合う企画です。グループ編成の際のコンセプトは「分野横断」。 専門的な話が聞ける分科会とは対照的に、 普段なじみのない異分野の研究の基礎的な話(導入的な話)を聴けるという点が特徴です。 また、話し手としては、異分野の人にでも分かるように自分の研究を説明することがポイントになります。
GSは、物性物理という広大な学問のなかの多様な分野から学生が集まる 物性若手夏の学校だからこそできる企画と言えるでしょう。 普段接する機会の少ない他大学・他分野の学生と議論することで、 参加者皆さんの世界が広がっていくことを期待しています。
企画概要 | 少人数のグループ内での研究紹介 |
---|---|
対象者 | 基本的に全員 |
事前提出物 | なし |
当日準備物 | 発表レジュメ・スライドなど必要と思うもの |
発表について
発表は、基本的に自分自身の研究についてです。 基本的に専門分野の異なるメンバーでグループを組むので、導入的な部分を重視した内容でお願いします。 まだ専門分野が決まっていない場合は、現在興味を持って勉強していることや、論文の紹介などでも構いません。 自分では「こんなこと誰でも知っているよ」と思うことであっても、 専門外の人にとっては新たな発見があったりするものです。 専門的か一般的かと言うことにはこだわらず、気軽に参加してください。
1人あたりの所用時間は、発表とその後の議論の時間を合わせて30分程度になります。 GSの最大の特徴は参加者同士の心理的な距離が近いということであり、 それが質問のしやすさにつながっています。 積極的な質問・議論を通して、専門外の物理の知識を深めましょう!
準備について
発表と議論の時間を合わせて1人約30分程度であるため、 この時間を目安に作成してください。 「私は議論の時間を長めに設けたいから10分程度の資料を作ろう」というように、 資料の分量は自由に設定していただいて構いません。簡単なスライドなどの準備を推奨します。
参加について
GSへの参加は強制ではありませんが、例年参加者のほぼ全員が参加しています。 交友関係を拡げるチャンスですので、是非参加してみてください。 参加登録時に皆さんの専門分野に関するキーワードを挙げてください。 それをもとに準備局でグループ分けを行います。
ポスターセッション
ポスターセッション (PS) は,発表希望者が研究内容をまとめたポスターを用意し、 それを見に来た人に向けて説明をする企画です。 聴き手が少人数であり、また時間の決まった発表ではないため、 発表者と聴き手とが随時コミュニケーションできることが特徴です。
例年発表者の人数は100人程度です。ふるってご参加ください!
企画概要 | 希望者がポスターを用いての発表を行う。聴き手はポスターを自由に回る。 |
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対象者 | 発表は希望者のみ。聴講は全員参加。 |
事前提出物 | 発表内容を簡潔にまとめたアブストラクト |
当日準備物 | 発表ポスター |
発表者にとって
PSは、内容に興味を持って聴きに来てくれた少数の人に向けて発表する企画であるため、 話し手にとっては発表しやすいと言われています。 グループセミナーよりも内容の深い発表、分科会よりも密度の濃い議論ができるはずです。 夏学のPSは、聴き手のほとんどが同年代の学生ですので、より発表しやすい環境になります。 他の研究会での発表を想定した練習の場としても、この機会をぜひ活用してみてください!
聴き手にとって
一方で聴き手にとっては、他の企画よりも少し勇気のいる企画かもしれません。 ポスターの近くまでは行ってみたけれど、発表者にほとんど話しかけられず、 気まずい空気のまま時間が流れ……という経験をした方も少なくないと思います。 分からないことがあれば、 いつでも「よく分からないのですが、ここを説明してもらえませんか?」と尋ねてみましょう。 専門的な知識のなさから消極的になる必要はありません。 その一言が物性物理という広い世界の新たな扉を開くきっかけになるかもしれないのですから。 ぜひいろいろと積極的に質問してみてください!
PSを通じて有意義な議論が展開され,また多くの交流が生まれることを願っています。
企業講演
準備中
講義アブストラクト
講義A 中性原子量子コンピュータの基礎‐量子エレクトロニクス概論‐
中島 秀太 先生
大阪大学
講義の前半は、磁気共鳴から始めて、原子の構造、2準位系とブロッホ球、電磁場の量子化(光子)、光子と原子の相互作用(Jaynes-Cummings模型)、原子の自然放出など「2準位原子のコヒーレント操作(≒1量子ビットゲート)」の基礎を扱う。2準位系のコヒーレント操作は量子エレクトロニクスの基礎であり、超伝導量子ビットなど他の量子コンピュータプラットフォームを理解するうえでも重要となる。
1量子ビットゲート操作の物理が、多くの量子コンピュータプラットフォーム(超伝導、イオントラップ、中性原子etc.)で共通である一方、2量子ビットゲートの実装方法は対象とする物理系で大きく変わってくる。講義の後半は、中性原子量子コンピュータにおける2量子ビットゲート実装の物理(リュードベリ状態の制御)を概説すると共に、中性原子量子コンピュータの構造や機能、強みなどを紹介したい。
講義B トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類理論
古崎 昭 先生
理化学研究所
講義C 結晶の対称性と物性
大原 繁男 先生
名古屋工業大学
古典的結晶学の講義なので,最新研究でもなく,質の高い教科書もいくつもある.しかし,典型的な固体物理学の教科書にはこの部分の解説は少なく,誤りも散見される.学ぶ価値はあるだろう.結晶が研究対象でない場合も,結晶を知ることで自身の研究対象の理解を深められるだろう.また,対称性は分野を選ばない知識である.
現在,私は希土類金属間化合物のカイラル結晶を合成して,その対称性に起因する物性測定を行っている.はじめてカイラル結晶に遭遇した際の知識不足の反省からこのような講義を計画した.つまりは私も最近になって学び直した事柄であり,講義することはおこがましいとも言える,しかし,身につけておくべき固体物理学の基本なので,結晶の対称性と物性について学んでみてほしい.
講義D 理論生物物理学入門
畠山 哲央 先生
東京科学大学
講義E 開放量子系の非平衡物性物理
中川 大也 先生
東京大学
講義F 非対称性のリソース理論の最近の発展:基礎と応用
田島 裕康 先生
九州大学
集中ゼミアブストラクト
講義A 量子多体系におけるエンタングルメント (オンライン講義)
笠 真生 先生
プリンストン大学
本稿ではまず、エンタングルメント・エントロピーとそれに関連した基本的な概念について整理する。 続いて、エンタングルメントのスケーリング則が物質相の分類において果たす役割、特にトポロジカル秩序の検出における応用について紹介する。さらに、近年注目されている混合状態や多者間エンタングルメント(multipartite entanglement)に関する議論にも触れる。具体的には、リフレクテッド・エントロピーやマルチ・エントロピーといった新しい量を用いて、トポロジカル秩序の普遍的情報を抽出する方法や、その下限としてこれらの量が働くことを解説する。これらの量は、二者間のエンタングルメントでは捉えきれない相の違いを区別する上で有効であることが、近年の理論的・数値的研究から明らかになりつつある。
講義B 量子系の対称性と非熱化現象
松井 千尋 先生
東京大学
熱平衡化現象は,「放っておいたコーヒーが冷めてしまって二度と温かい元の状態に戻らない」などの例に代表される,マクロな世界にありふれた現象です.ポイントは「元に戻らない」というところで,実際,日常生活で起こる多くの現象は不可逆過程であることを私たちは経験的によく知っています.
一方,原子や分子スケールのミクロな世界を記述する「シュレーディンガー方程式」は,多くの場合に時間反転対称です.原子や分子一つひとつは時間反転対称な方程式にしたがうのに,それがたくさん集まったマクロな世界では時間を巻き戻すことができないのはなぜでしょうか?
一般的に,「多体系」とよばれる多粒子からなる量子系の時間発展を解析的に調べることはとても困難です.しかしながら、特定の数理構造をもつ一部の量子多体系は解けることが知られています.こうした量子多体系は「可解模型」とよばれています.ここでは,この可解模型を使ってミクロの世界とマクロの世界を隔てるものの正体に迫ってみたいと思います.
講義C 低次元導体の電子物性
松永 悟明 先生
北海道大学
講義D タンパク質相分離の凝縮系物理
足立 景亮 先生
理化学研究所 兼任 生命機能科学研究センター
講義E 最適輸送理論を用いた非平衡物理の探究
Tan Van Vu 先生
京都大学
講義F 量子カオスと量子情報 -複雑な時間発展と情報復元の非自明な関係-
中田 芳史 先生
京都大学
講義A 機械学習と物性物理学:AIは何ができて何ができないのか
永井 佑紀 先生
東京大学
講義では、教師あり学習や強化学習といった手法が、エネルギー予測や量子多体問題の扱いにどのように使われているのかを具体例を交えて紹介し、あわせて自己学習モンテカルロ法など近年の話題にも触れます。また、対称性やエネルギーの示量性といった物理の基本原理を満たすモデル設計の重要性についても議論します。
機械学習は強力なツールですが、すべてを解決できるわけではありません。本講義では、AIの得意なこと・不得意なことを整理し、物理学的知見と組み合わせて活用するための視点を学ぶことを目的とします。
講義B 量子臨界点から眺める量子スピン鎖のトポロジー
古谷 峻介 先生
埼玉医科大学
講義C 半導体の永久スピン旋回状態とその応用
好田 誠 先生
東北大学
講義D ひもやシートが作り出すかたちと力学
谷 茉莉 先生
京都大学
講義E トポロジカルアクティブマター:生物と固体物理の協奏
曽根 和樹 先生
筑波大学
本集中ゼミでは、トポロジカル絶縁体とアクティブマターの両方の基礎理論から説明を始めます。そして、アクティブマターを記述する流体方程式に基づいて、その線形化によってシュレディンガー方程式とアクティブマターのダイナミクスを結びつけることができることを説明し、その実効的なシュレディンガー方程式のハミルトニアンにトポロジカルな性質を持たせる方法を紹介します。また、近年注目を集めている非エルミートなどへの拡張についても時間の許す範囲で紹介できればと思います。
講義F 量子情報科学と物性物理
竹森 那由多 先生
大阪大学
2025 年の国際量子年(International Year of Quantum Science and Technology)は、こうした量子科学の進歩を振り返るとともに、今後の発展の方向性を議論する重要な機会となる。本稿では、初学者も想定してまず量子力学の基本公理を復習し、それに基づく量子情報理論の重要な定理を解説する。後半では、物性物理のための量子アルゴリズムに焦点を当てる。量子状態を推定する手法として、従来より量子状態トモグラフィー(Quantum State Tomography)が知られてきたが、その計算コストの高さが実用上の課題とされてきた。また、変分量子固有値法(VQE, Variational Quantum Eigensolver)のような手法が、相関電子系の基底状態エネルギー計算に応用されてきたものの、精度や精度の限界や適切なアンザッツの選択が求められる点で課題がある。こうした従来手法の課題を踏まえ、近年注目されている新たな手法として、古典影像法 (Classical Shadow Tomography) およびフェルミオン影像法(Fermionic Shadow Tomography)を紹介する。
量子計算は、相関の強い電子系の研究に新たな手法をもたらすだけでなく、物性物理の理解を根本から変える可能性を秘めている。本稿では、その理論的背景と具体的な応用例を示し、物性物理学を学ぶ大学院生がこの分野の最新動向を理解し、さらなる発展に貢献できるような基盤を提供することを目指す。(講義資料より転載)