物性若手夏の学校の分科会は3〜4分野5〜6会場に分かれて各分野の最先端で活躍する若手招待講演者(発表30分+質問10分)と発表希望者(発表10分+質問5分)による口頭発表を行う企画です。
物性若手夏の学校の分科会を一言で表すならば敷居の低い口頭発表会です。簡単に学会発表との比較をしてみると
分科会発表 | 学会発表 |
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研究成果の十分出ていない人も歓迎 | 学会発表に足る成果があることが前提 |
自分の好きなように発表できる | 発表内容は指導教官と打ち合わせを重ねる |
おおざっぱな分野分けなので専門外の聴衆が大半 | 最先端でしのぎを削る研究者が聴衆 |
といった感じになります。どうでしょう?口頭発表と言っても学会とはかなり違うことが分かりますよね。
これらの特徴を発表者側から見ると…
といったメリットがあると言えます。もちろん質疑や休憩時間に学会と同じように研究そのもののに有意義な議論が行われることもあります。研究成果の有る無しや学年を問わずこんなに有意義な分科会なら発表しない手はないですよね!?もちろん発表慣れした博士課程の方も歓迎です。少し肩の力を緩めて思う存分自分の研究のおもしろさを語って下さい!
隣の研究室の、学部時代の友人の研究内容をちゃんと理解してますか?―すでに肌で感じている方も多いかもしれませんが、現代の研究の現場というのは非常に専門化が進んでいます。例えば日本物理学会の物性分野は現在12領域(物理教育を除く)に分けられ、発表の際はさらに細かい100を越える分野に分けられます(数えてみてビックリしました!)。それに比べると物性若手夏の学校の分科会はとても大雑把な分け方です。しかし、物性若手夏の学校の分科会ではこの大雑把さのおかげで若干関わりはあるものの普段聞くことの無い研究に触れることができます。ポスターセッション同様、専門外の研究から得られる自分の研究への意外なフィードバックもさることながら、やはり物理の面白さや懐の広さや多様性を認識するよい機会になるでしょう。
また、分科会招待講演では今をときめく若手研究者の方々に最新の研究成果をお話ししていただきます。エキサイティングな研究の話を聞けると同時に質疑応答や休憩・食事・懇談会を通じて学会とは全く異なる距離感でお話できるチャンスでもあります。
日時 | 8/9(月)15:30〜19:00 |
発表時間 | 招待講演発表30+質疑10分、一般参加者10+5分 |
場所 | ホテル内各会場 詳細は当日に配布します。 |
形式 | ファイルタイプは問わず発表スライドを作成して下さい。PCは持参願います。 |
発表申込 | 物性若手夏の学校参加登録時に受付 |
概要〆切 | 6/30(水) テンプレートは
こちらを参照。 夏の学校当日にポスターセッションの概要とまとめて参加者に配布します。 |
氏名(敬称略、五十音順) | 所属 | 講演タイトル |
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飯田琢也 | 阪府大ナノ科学材料セ | 光と揺らぎによるナノ系の動的過程制御の理論と 新奇技術への展開 |
稲垣紫緒 | 京大理 | つぶつぶのぶつり〜粉粒体の自発的分離現象〜 |
笠原裕一 | 東大工 | エキゾチック超伝導体のギャップ構造 |
松村武 | 広大先端 | 共鳴X線による多極子秩序の観測 |
吉野好美 | 東大情報理工数理情報 | ランダム生態系モデルの生成汎関数による解析 |
光と揺らぎによるナノ系の動的過程制御の理論と新奇技術への展開
飯田琢也 先生
大阪府立大学 21世紀科学研究機構 ナノ科学・材料研究センター 特別講師
"光マニピュレーション"という言葉をご存知でしょうか?光の特性を生かし、非常に小さな物質を制御する技術のことを言います。ナノテクの舞台となるミクロの世界では、このような光による物質制御が大きな役割を果たします。飯田先生は、レーザー照射下で、ナノ物質間に量子力学的効果による遠隔的な力が生じることを理論的に解明されました。
本講演では、ナノ物質の動的過程を光と揺らぎにより制御し、新奇なナノ複合体の作製やその光機能の計測を行うための原理開拓を目指した理論研究を紹介します。また、得られた原理に基づく新しい操作・製造・計測に関する技術群の創成や、新奇な生体模倣技術への展開を目指した取り組みについても紹介する予定です。
稲垣紫緒 先生
京都大学 理学研究科 研究員(科学研究)
私たちの身の回りの物質のほとんどは粉体に分類されます。インスタントコーヒー、砂などがその例です。それらに共通する性質は、はね返り係数が1より小さい物質の多体系であることです。この性質をもっている系を粉体系とするならば、例えば人ごみですらその範疇として扱うことができます。このように散逸のある系は、その応用上の重要性にもかかわらず、伝統的な熱統計力学の基本的な考え方である熱平衡の概念が存在しないことが障害となって、長い間物理的アプローチを拒んできました。
稲垣先生は、このような挑戦的な系を取り扱う非平衡統計力学を専門として研究されています。本講演においては、2種類の粉体を混ぜようとすればするほど分離してしまうという粉体の不思議な性質についてお話いただきます。この問題は単に不思議なだけでなく、製薬などの業界においても実際に重要な課題とされているそうです。
笠原裕一 先生
東京大学 工学系研究科付属量子相エレクトロニクス研究センター 助教
1986年の高温超伝導の発見以来、BCS理論では説明できない超伝導物質の探索が盛んに行われてきているのは皆さんご存じでしょう。
その超伝導現象を理解する上で重要な電子対形成のメカニズムは「超伝導ギャップ構造」と深く関わっています。例えばBCS理論ではギャップは等方的に開いた構造をしていますが、高温超伝導などはそのギャップが異方的に開いている構造をしていると考えられております。そのギャップ構造を解明することは超伝導研究の中で重要な研究テーマの一つです。
本講演では笠原先生には超伝導物質群の中でも「重い電子系超伝導体」と呼ばれる超伝導物質に対象を絞って、超伝導ギャップ構造を決定する実験手法である熱輸送特性の角度分解測定について基本的な部分から研究の最前線の内容まで紹介していただきます。超伝導や重い電子系の研究をしている方以外にも、超伝導の最新の研究に興味のある方は是非講演を聞いて一緒に学びましょう!!
松村武 先生
広島大学 先端物質科学研究科 量子物質科学専攻 准教授
昨今、強相関電子系の示す物性に決定的な影響を与える自由度として、電荷、スピンに加え多極子の自由度に注目が集まっています。
この多極子自由度(とりわけ磁気八極子以上の高次の多極子)は、「隠れた秩序変数」とも呼ばれ、これまで実験で直接的に観測することは困難でした。
しかし、今回ご講演いただく松村先生らのグループは、共鳴X線回折という手法を用いて、磁場によって誘起された磁気八極子を観測することに成功しています。
本講演では、まず多極子自由度とは何か、物性物理においてどう重要なのかといったお話から始まり、多極子自由度を観測するための最新の実験的手法についてもお話いただく予定です。
吉野好美 先生
東京大学 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 特任研究員
量子論的場の理論における生成汎関数とは、汎関数微分によりグリーン関数を生み出す母関数のことであり、径路積分に基づくその形式論から導かれる結果の美しさと力強さには目を見張るものがあります。
ところで、このたび御講演頂く吉野先生の世話人を務めさせて頂く私は、生態系の分野に関しては完全に素人なのですが、私の専門である凝縮系理論分野とは全く異なる領域でも生成汎関数法(GF)による解析が行なわれているということを知って以来、その意外性からとても強く関心を抱くようになりました。
したがって、本講演における個人的な希望としては、生態系などを専門的に研究されている方のみならず、むしろ私と同様に普段何らかの形でGFと関わってはいるものの、自分の専門領域以外でどのようにそれが用いられているのかを知らないという方々にこそ、先生の御講演を聴いて頂き、何か予期せぬ発見をしてもらえればと考えます。
そして、GFが異なる文脈でどのように用いられているのかを知り、その利点や問題点などを改めて考える機会になることを願います。
また、今回の吉野先生の御講演では、生物種間に存在する現実に即した詳細な要素をも視野に入れた新しい生態系モデルについてお話しして頂く予定ですので、この分野を専門的に研究されている方にとっても、知見を広げ理解を深める良い機会になるものと考えます。
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