第55回を迎える物性若手夏の学校は、日本全国で物性科学を志す若手研究者を対象にしたサマースクールです。身の回りにある物質がどのような物質であるか。何に使えるか。もしくは新しい夢のような物質を作れないか。これは有史以前から人類にとって大きな疑問であり、また野望でもありました。それらを体系的にまとめ、そして新たな地平を切り開く学問。それが現代の物性科学に他なりません。
今日でも多くの課題は身の回りにある「モノ」にあり、そしてこれらを解決する大きな礎が物性科学にあります。昨今紙面を賑わす地球規模でのエネルギー問題や食料問題に立ち向かうための化石燃料以外のエネルギーの開発は、まさに新たな変換材料やエネルギー生成機構の探索がその主たる部分を占めております。また医療の現場においても移植や薬の投与に留まらず、新材料や再生技術を用いた治療により、多くの人命が救われつつあります。加えて更に高度化しつつある情報化社会を支える半導体技術や光通信。2009年にノーベル物理学賞がこれらの功績に授与されたことでも記憶に新しいですが、一方で半世紀以上前のトランジスタの発明がこのように社会構造すら変革する力になるということは当時は想像し難かったことでしょうし、今後も何十年後を見越した研究の大切さは変わらないものと思われます。基礎研究、応用研究双方がより一層の充実を見せ、21世紀はまさに物性科学の世紀となるのではないでしょうか。
物性若手夏の学校は、今後日本の、そして世界の物性科学を引っ張っていく大学院生、学部生を中心とした若手の研究者が将来の人生において貴重なきっかけを得られる機会として50年以上の歴史を持っております。各分野の一流の先生方にお話いただく夏の学校のプログラムに参加することで、現代の物性科学を理解し、そこで活躍していくための知識を基本的な部分から最先端まで身に着けることができます。そして参加者が発表する機会も豊富に設けられており、今後の研究活動発表の良い練習機会となります。また目線の近い他分野の若手の発表を聞くことで、更に幅広い視点を持つことが可能になります。その意味で、発表者だけではなく、聴衆全員にとっても非常に貴重な機会とも言えるでしょう。そして昨今の予算編成などの事情を鑑みても、科学者間のネットワークの形成、社会への発信力はより一層の重要性を持っています。この夏の学校を通して出来た人脈が、今後の活躍においても重要な役割を果たし、今後の物性科学を推し進める力となることを願ってやみません。
これらの夏の学校の意義を実現するために、「情熱が集まる。あなたが変わる。―More is different.―」という標語のもと、スタッフ一同すばらしいきっかけ作りのできる夏の学校運営を目指しております。具体的には次のようなことに気を配って、夏の学校をよりよいものにするために尽力しております。ぜひ、みなさんの参加をお待ちしております。
末筆ではありますが、毎年の学会、研究機関や財団からの後援や援助、および各協賛企業からの支援、そして快く協力してくださる講師の先生方のご好意によって夏の学校が55回目を迎えられることを感謝したいと思います。
それでは熱い夏を、共にすごしましょう!
第55回物性若手夏の学校校長 樋口卓也
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