53rd Condensed Matter Physics Summer School 2008

マルチフェロイックの物性基礎論

有馬孝尚 教授
東北大学 多元物質科学研究所

概要

マルチフェロイックとは元来強磁性、強誘電性、強弾性のうち複数の性質を併せ持つことです。 物性分野では、現在、磁気秩序と強誘電性が共存した物質の研究ブームとなっており、これらもマルチフェロイックと総称されています。 この磁性強誘電体の研究は、超伝導の研究などと比べて、目指す方向が多角的でわかりにくい部分があります。 そこで、本サブゼミでは、下記の話題に触れながら、マルチフェロイックにおける物性研究の基礎とその方向性について解説します。

  1. 強秩序性(ferroic)、多重強秩序性(multiferroic)とは本来何か。
  2. 複数の自由度が秩序化すると何が期待されるか。
  3. 多重強秩序系ではどのような電気磁気光学(magnetoelectric optics)が発現するか。それは電子論に基づいてどのように理解されるか。
  4. 幾何学的なフラストレーションを有する磁性体で、なぜ次々と巨大な電気磁気効果が発見されているのか。
  5. 多重秩序系のドメイン構造に起因する物性にはどのようなものがあるか。

世話人からのメッセージ

電子相関が強い系は、電子数、軌道、スピンの自由度が絡み合い、エキゾチックな物性を示すことが知られています。 その強相関電子系の研究を長年にわたって最先端で推し進めてこられた有馬孝尚先生に、先生の最近のテーマの一つであるマルチフェロイックについてお話して頂きます。

強磁性、強誘電などの電子の集団が見せる自発的な対象性の破れが複雑に組み合わさったマルチフェロイックは、 純科学的な興味を引くのみならず新奇なデバイス作成の鍵にもなりうる物性物理の非常にホットな研究対象であると言えるでしょう。 また直接この分野を研究していなくても広く固体物性に興味を持っている学生であれば、 先生がどのような観点で物性制御、物質探索を行って来られたかを伺うことで普遍的な実験方法論について学ぶことができる大変貴重な機会になると思います。