53rd Condensed Matter Physics Summer School 2008

生命系の構築原理と進化 — 進化する分子ネットワークとしての生命 —

田中博 教授
東京医科歯科大学 大学院生命情報科学教育部 システム情報生物学

概要

生命系の構築原理とその進化を複雑系生物学やネットワーク生物学から解明しようとする研究を紹介し、普遍的な生命系理論の構築の可能性を論じる。 まず、生命系の原理的レベルの研究に関しては、生命系を非平衡構造論や生命エントロピー論から解明したときの特徴を述べるとともに、 情報論的な観点から「分子ネットワークによって秩序化された系」としての基本構造、すなわち土台としての非平衡自己再帰的反応構造、 それへの情報分子ネットワークによる統御、その記号的構造、「選択」による構造維持や複雑化進化可能性などに複雑系生物学の観点から考察する。

次に、より具体的な生命の体制的構造や進化に関しては、まず生命系が始原生物、原核生物、真核生物、多細胞生物と「融合」「共生」「シート的連結」 などの入れ子的な階層的進化により複雑化したことを明らかにするとともに、生命分子ネットワーク理論として、タンパク質相互作用ネットワークの例にとって、 その3層構造やscale-free、small-world性とその進化的再構成を論じる。 また、システム的なアプローチによる進化発生学として多細胞生物以降のマクロ進化を例に、 それが発生調節遺伝子ネットワークによる調節空間の次元増加的進化に起因することをHox遺伝子族の進化に基づいて紹介する。 最後に生命進化を分子ネットワークの複雑化として捉えるシステム進化生物学の基礎理論の現状を述べる。

世話人からのメッセージ

近年、物理学が対象とする範囲は物質だけに限らず、経済、生態系、情報、生命などにまで及んでいます。 それらのシステムは我々にとってより身近な存在であり、興味を持っておられる方も多いのではないでしょうか?

今回お呼びする田中先生は、近年明らかになってきたDNAや生体内たんぱく質の網羅的な情報の知見を複雑系生物学に取り入れ、 生命の普遍的な構造を抜き出し、生命の原理を解明しようとする研究を進めておられる方です。 この講義では、我々にとって最も関わりのある「生命」をどのような観点で捉えなおし切り込んでいくか、 について最新の研究を踏まえてお話していただきます。物理学にとっての未開の地に挑戦するという視点を学ぶことは、 これから研究者を目指す方にとっても、就職して社会で働こうという方にとってもきっと有意義な経験になることでしょう!

もちろん生物学を普段学ぶことのない学生にもわかりやすく講演していただく予定なので、 分野にかかわらず多くの学生の皆さんが受講されることを期待しています。