53rd Condensed Matter Physics Summer School 2008

子供は、私の糧。 —いつも、ポジティブな気持ちを。—

田口 知子

1987年名古屋大学 理学部卒業
1989年お茶の水女子大学 理学研究科 修士課程修了
同年(株)東芝 入社 総合研究所 研究員
1997年(株)東芝 青梅工場に転勤
現在(株)東芝 コアテクノロジーセンター 磁気ディスク開発部
東芝勤続中、二児出産育児のため、約半年の育児休職を二回取得。

メッセージ

私たちの世代は、男女雇用機会均等法施行まもない時代でしたので、四年制大学出身の女性は、男性と同等に働く機会を得られたというだけで、未来が明るくなったような気がしました。この男女雇用機会均等法のおかげで、前例のない職種・部門への女性採用の門戸も開かれました。ただ、当初は、本当に機会を与えられたというだけで、どう働いていくか?ということも、自分達で考えていかないといけないという状態でした。当初は、雇用する側の戸惑いも、異様に大きかった気がします。男女平等の教育をされてきた私たち女性にとっては、平等に扱ってもらいたい気持ちで、やる気がありましたが、男性と同等の仕事チャンスを与えてもらえない場面も少なくなく、もどかしさを感じました。しかし、せっかく与えられた仕事のチャンスを逃したくないという私たち女性の気持ちは強く、女性同士交流を深め、それぞれの職場で、さまざまな問題を一つ一つクリアしながら歩んできました。まだ、携帯電話も普及していなかった時代に、研究所で試験的に運用されていたメーリングリストを活用したり、メールコミュニティのルールを作ったりもしました。また、どうしても制度的改正が必要なものは、自ら資料作りをして要求をしたりしました。 男性とほぼ同等の仕事が与えられるようになった後の課題は、育児との両立でした。保育園入園の倍率の高さに始まる育児をとりまく環境の不備に悩み、育児休職を終えて戻った後も、時間制限のある勤務状況の中で、どうすれば、周囲と同等の仕事ができるのかで、試行錯誤の毎日でした。私が、いろんな場面でハンディを感じたときに選択した解決策は、人と違う仕事をすることでした。人がなかなか手をつけたがらないようなチャレンジングなテーマ、粘りが必要な長期的なテーマ、新しい発想のテーマなどに取り組んできました。これは、大学時代の先輩をみて学んだ姿勢です。「○○という問題点があるから、できない。」と人が言っているときは、チャンス!と思うようにしていました。理学部出身者は、手に職はついていないけれど、視野を広くもったり、発想を大切にしたりする能力は、工学部出身者よりも身についていることが多いと思っています。型にはまらない答えを見つけ出す視点の持ち方は、大学在学中に身につけた気がします。

育児も、それをハンディとだけ思っていると、なかなか苦痛なものです。確かに、当初は大変でしたが、大変な分、生きていくためのいろんな技術が身についてきた気がします。効率よく仕事をする手段、常に仕事の優先順位を意識すること、人を説得するプレゼンの仕方、コミュニケーション能力など。仕事のポイントも、育児のポイントは、時間がないからこそ見えてくるものだと思っています。

育児と仕事の両立は、どういう仕事を選択するのか、どんな子供が自分の前に現れるかによって、その具体的解決策は、さまざまだと思います。ただ、自分を含め私の周囲で頑張っている女性達を見て共通していえるのは、「自分は、どういうように歩みたいのか?」という意識をもっているということです。「人生は、所詮、暇つぶし。前向きに挑戦しながら生きていかないと楽しくないよ。」と言っていた友人がいました。失敗を恐れて躊躇するよりも、リスクを覚悟しながらでも突き進んでいく人生の方が、楽しいです。私が、息子達にとにかく身につけてほしいと思っているのは、転んだときの自分なりの起き上がり方です。私の今の育児の楽しみは、子ども達に転ぶチャンスを与えることです。這い上がってきたときの子供の表情はとっても素敵で、逆に自分が元気をもらっている気がします。