▌分科会




▆分科会受賞者一覧

ポスターセッションでご用意致しました受賞者と発表タイトルの一覧です。 受賞された皆様、おめでとうございます!次回夏の学校においても皆様のチャレンジをお待ちしています!

所属タイトル
分野A王青陽 Massachusetts Institute of Technology「フェルミ極低温極性分子23Na40Kの基底状態の実現に向けて」
分野B井上拓哉 東北大学 金属材料研究所「グラフェンにおけるスピンポンピング」
分野C山神光平 大阪大学大学院 基礎工学研究科「偏光依存光電子分光を用いた銅酸化物高温超伝導体のCu3d微細電子状態の解明」
分野D中村飛鳥 東京大学大学院 工学系研究科「時間分解電子線回折によるIrTe2超高速応答の観測」
分野E西口大貴 東京大学大学院 理学系研究科「みずから動く非対称な粒子の作り出す乱流構造」
分野F高橋惇 東京大学大学院 総合文化研究科「断熱量子計算における非一様な横磁場の効果」



▆ 分科会とは?

分科会は3〜4分野5〜6会場に分かれて、各分野の最先端で活躍する若手招待講演者(発表30分+質問10分)と発表希望者(発表10分+質問5分)による口頭発表を行う企画です。

学会や研究会などの口頭発表と同じ形式ですので、例えば物理学会の発表練習の場として大いに活用できると思います。
PSと同様、こちらも各会場の一位の発表者にささやかな賞品を進呈する予定です!!
(※注意!)スタッフが適切でないと判断した場合は、賞を出さない可能性があります。


○ 話し手にとって

物性若手夏の学校の分科会は、学会や研究会などと比べてかなり敷居の低い口頭発表です。どのくらい敷居が低いのか、簡単に比較をしてみましょう。

分科会発表学会発表
研究成果の十分出ていない人も歓迎学会発表に足る成果があることが前提
自分の好きなように発表できる発表内容は指導教官と打ち合わせを重ねる
おおざっぱな分野分けなので専門外の聴衆が大半最先端でしのぎを削る研究者が聴衆

どうでしょうか? 
同じ口頭発表でも学会とはずいぶん違い、あまり緊張せずに発表できると思います。

口頭発表は、短い時間の中でいかに要点をコンパクトに伝えられるかが重要になります。まだ発表経験の少ない人にとって、分科会で発表することは貴重な経験になるでしょう。学会発表へ向けた練習の場として役立つはずです。
もちろん分科会ではPSよりも多くの人に聞いてもらえるため、質疑応答や休憩時間などでより有意義な議論をすることができます。

発表慣れしている方も、自分の研究内容をアピールする場としてぜひ利用してください!
また、学部生やM1でまだ研究のテーマが決まっていない方も、自分が読んで関心を持った論文などのレビューを発表して頂いても構いません。


○ 聞き手にとって

隣の研究室の、学部時代の友人の研究内容をちゃんと理解してますか?すでに肌で感じている方も多いかもしれませんが、現代の研究の現場というのは非常に専門化が進んでいます。
例えば日本物理学会の物性分野は現在12領域(物理教育を除く)に分けられ、発表の際はさらに細かい100を越える分野に分けられています。

それに比べると物性若手夏の学校の分科会はとても大雑把な分け方です。
しかし、物性若手夏の学校の分科会ではこの大雑把さのおかげで若干関わりはあるものの普段聞くことの無い研究に触れることができます。
ぜひ発表している人にいろいろ質問をして、物性物理の面白さを肌で感じてください!

また、分科会招待講演では今をときめく若手研究者の方々に最新の研究成果をお話ししていただきます。
エキサイティングな研究の話を聞けると同時に質疑応答や休憩・食事・懇談会を通じて学会とは全く異なる距離感でお話できるチャンスでもあります。


▆ 分科会の詳細

日時7/31(木)15:30〜19:00
発表時間招待講演発表30分+質疑10分、一般参加者10分+5分
形式ファイルタイプは問わず発表スライドを作成して下さい。PCは持参願います。
発表申し込み物性若手夏の学校参加登録時に受付
概要締め切り 6/20(金) テンプレートはこちらを参照。
夏の学校当日にポスターセッションの概要とまとめて、参加者に概要集を配布します。
また電子版概要集の配布も予定しております。
留意点夏学終了後に受賞者の名前と発表タイトルをウェブページに載せる予定です。 伏せたい方はご連絡ください。

▌招待講演講師一覧(敬称略、五十音順)

講師所属タイトル
泉田 勇輝お茶の水女子大学 理学部情報科学科最大パワー熱機関物理学の発展と展望〜現代的な「火の動力に関する考察」を目指して〜
坂上 貴洋九州大学 理学研究院 物理学部門高分子物理から見る生命現象
相馬 清吾東北大学 理学研究科スピン分解ARPESで見た
トポロジカル絶縁体の表面電子状態
徳永 祐介理化学研究所 基幹研究所ペロフスカイト型希土類鉄酸化物が示す
巨大な電気磁気効果
南部 雄亮東北大学 多元物質科学研究所中性子散乱を用いた磁性研究
村川 智慶応義塾大学 理工学部ナノスケールサイズに現れる
超流動ヘリウムの新しい現象

▆ 講義内容

最大パワー熱機関物理学の発展と展望〜現代的な「火の動力に関する考察」を目指して〜
泉田 勇輝 先生(お茶の水女子大学 理学部情報科学科)


カルノーは1824年の論文「火の動力に関する考察」で全ての熱機関の効率には熱 源の温度で決まる上限値(カルノー効率)が存在することを示しました. 一方,この上限値は準静的極限で達成されるため,パワー(単位時間当たりの仕事)は ゼロとなってしまいます.実際の熱機関は有限のパワーを出力しなければ意味があり ません.
有限時間熱機関の効率論は必然的に非平衡系の熱力学の問題であり,古くて新しい問 題と言えます.

近年,小さな温度差で動く熱機関の「最大パワー時の効率」には熱源の温度で決まる 上限値(Curzon-Ahlborn効率と呼ばれる)が存在することが示され,注目を集めてい ます.
カルノーが熱機関の研究から熱力学への道を拓いたように,最大パワー熱機関の研究 を切り口に非平衡系の熱力学に迫れるでしょうか?

この問いに対してこれまで講演者は,通常の準静的な理想気体のカルノーサイクルを 有限時間に拡張したモデルを提案し,Curzon-Ahlborn効率の普遍性と限界を数値的・ 理論的に
研究してきました.また,より普遍的な熱機関の理論を構築する立場から,作業物質の 種類や系の詳細に依存しない一般的な非線形不可逆熱機関のモデルなども提案してい ます.

講演ではこれら講演者の仕事を中心に,最近の最大パワー熱機関の物理学の展開を概 観するとともに,「動力源としての熱」の科学のこれからの可能性も議論したいと思 います.


●世話人姫岡による紹介文

カルノーサイクルを初めとするエンジンの研究が、実はここ数年で非常に活発化していることを知っていますか? 熱力学の教科書を見ながらP-V線図を書いて計算して以来、そんなものさっぱり忘れてしまったという人も多いかもしれません。

しかし私たちがカルノー効率を計算しているまさにその頃、非平衡熱力学を用いたエンジンの研究、発見が次々と生み出されていたのです。 有限時間熱機関、最大パワー時の効率、そして非線形不可逆熱機関。教科書の一歩先には実に刺激的な情景が広がっていたのです。「学部で学んだ物理が、こんなにも発展していたなんて!」という驚きを得たい方は、ぜひ参加してみてください。
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高分子物理から見る生命現象
坂上 貴洋 先生(九州大学 理学研究院 物理学部門)


生物のからだの中には、DNA, RNA,タンパク質、糖・・・とたくさんの生体高分子があり、生命現象を織り成しています。

分子生物学の進展により、これら生体高分子の構造、振る舞い、機能の詳細について、実に多くのことが分かってきました。 本分科会では、少し視点を変えて、高分子物理学の立場から、生体高分子の働きについてどのようなことが言えるか考えてみたいと思います。

生体高分子は長い紐状の分子です。 特に遺伝物質であるDNAを見てみると、その全長は驚くほど長く、ミリメートルからセンチメートルにも及びます。 (実際、DNAの太さが2ナノメートルであることを考えると、驚くべき長さであることがわかると思います。)様々な特異的相互作用に満ちた生命現象に於いて、その構成要素が「紐状」であることに由来する普遍性が潜んでいるかもしれません。

生物の物理に興味のある人、高分子に興味のある人、タンパク質に興味のある人、ぼんやりと生命に興味のある人など、いろいろな人と議論できたらと思っています。


●世話人後藤による紹介文

 多くの生命現象はメソスコピックな高分子系であり、高分子物理学の考え方を応用することでさまざまな生命現象を記述することができます。高分子物理学は生命現象という複雑な非平衡現象の記述への大きな可能性を秘めています。

 坂上先生は、高分子鎖の空間拘束、単分子鎖の外場応答に対する非平衡ダイナミクス、非平衡揺らぎと応答に関する基礎研究、DNAの折りたたみ転移など、高分子物理、生物物理の分野でさまざまな示唆に富んだ研究をなされている先生です。 本講演では、高分子物理が活躍する生命現象について先生の研究も含めてお話していただく予定です。皆様のご参加をお待ちしております。
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スピン分解ARPESで見たトポロジカル絶縁体の表面電子状態
相馬 清吾 先生(東北大学 理学研究科)


トポロジカル絶縁体は、時間反転対称性を持つ絶縁体において、離散的なトポロジカル数(Z2)を定義することで見出された新しい物質である。 バルク絶縁体(Z2=1)の表面では、真空(Z2=0)とのZ2値の跳びを「つなぐ」ために、価電子帯と伝導帯の間にギャップレスな表面電子状態が形成され、これに起因した様々な量子物性が予測されている。

この表面電子状態はディラック型のバンド分散構造を持ち、強いスピン軌道相互作用によって電子の運動量に依存した特異なスピン配置をとる。スピン分解ARPESは、そのような複雑なスピンテクスチャーを直接決定する事のできる強力な実験手段であり、とくに最近になって実験装置に大きな進展があり、トポロジカル絶縁体の研究に重要な役割を果たしてきた。

本講演では、スピン分解ARPESの進展と共に、トポロジカル絶縁体の最近の実験結果を幾つか紹介する。


●世話人内免による紹介文

光電子分光は、光を照射し外部光電効果を利用することで、固体内部の電子を直接観測する手法です。 一方で、物質の電気的・磁気的性質を支配するのは固体内部に存在する電子です。 つまり、光電子分光とは物性を理解する上では非常に強力な実験手法です。 実際に利用されている研究分野は、強相関電子系の超伝導や価数揺動、トポロジカル絶縁体、また有機化合物などといった幅広い研究領域に渡ります。 また最近ではレーザー、紫外線、X線といった様々な励起光源が存在し、それぞれの特徴を生かした研究がされています。

今回お越しいただく相馬先生は、スピンにまで分解するスピン・角度分解光電子分光を用いて表面が金属的性質、内部が絶縁体というトポロジカル絶縁体の表面電子状態の研究をされています。 皆さん、最新のトポロジカル絶縁体の研究と、強力な実験手法である光電子分光に触れてみませんか?
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ペロフスカイト型希土類鉄酸化物が示す巨大な電気磁気効果
徳永 祐介 先生(理化学研究所 基幹研究所)


磁気秩序と強誘電性を併せ持つ磁気強誘電体においては、電場による電気分極の、あるいは磁場による磁化の変化といった「当たり前の」応答だけではなく、電場による磁化の、あるいは磁場による電気分極の変化といった「非自明な」応答が期待される。 これは電気磁気効果と呼ばれる、交差相関物性現象の一種である。

この効果は、磁場と電場の両方で情報操作可能な磁気メモリの実現や、電場というジュール熱損失(消費電力)の少ない手段により磁気情報を直接制御する手段を供する可能性など、応用上の観点からも重要であると考えられる。この効果は従来小さいと考えられていたが、近年、ある種のらせん磁気秩序が強誘電性を誘起している磁気強誘電体が、磁場により電気分極の方向を変えたり、500%にも及ぶ誘電率の変化を示したりするなどの、巨大な電気磁気効果を示すことが発見されて以来、特に磁気秩序が強誘電性を誘起している磁気強誘電体の電気磁気効果について集中的な研究が行われている。  

この講演では、講演者らが強磁性強誘電体であることを見出し、ここ数年研究対象としているペロフスカイト型の希土類鉄酸化物を中心として、これらの物質における強誘電性の起源や、これらの物質が示す磁場による電気分極の反転、あるいは電場による自発磁化の反転といった電気磁気効果について紹介する。


●世話人河野による紹介文

「電場をかければ分極が変化する」「磁場をかければ磁化が変化する」
これらの、言わば”普通の”物理で捉えられる応答に対して、物性物理学の分野では 「電場をかけると磁化が変化する」「磁場をかけると分極が変化する」 という驚くべき応答を示す物質群が知られています。
これらの非対角的な応答は、主に強相関電子系において特徴的な電子の複数の自由度(電荷・スピン・軌道)から生じており、「交差相関」として盛んに研究されています。
物質中の多体効果により、”普通の”物理学から見て非自明ともいえる現象があらわれる…まさに物性物理学の醍醐味ではないでしょうか。
今回、講師としてお呼びしている徳永先生は、そんな「交差相関」の研究をリードする第一線の研究者であり、2013年度の日本物理学会若手奨励賞も受賞されています。
みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。
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中性子散乱を用いた磁性研究
南部 雄亮 先生(東北大学 多元物質科学研究所)


中性子散乱は物性物理学研究における強力な測定手段である。 中性子散乱を通して物質の構造や励起について微視的な情報を知ることができる。

これは中性子自身の持つ性質に起因している。 まず電気的に中性であるため高い透過力を有し,試料内部の情報を提供してくれる。 また1/2のスピンを持つため,原子核で散乱される核散乱過程の他に,不対電子の磁気モーメントとの双極子相互作用を通しても散乱される。 この磁気散乱過程を通して物質の磁性を調べることができる。

一般に中性子散乱で使用される中性子の波長は数A程度であり,物質を構成する原子間距離と同程度である。 そのためx線回折や電子線回折と同様、結晶に対する回折によって静的構造研究が可能である。 さらに、励起研究を行う上でも中性子散乱は適している。 1 A程度の波長を持つx線のエネルギーは10 keVであるのに対し,中性子の場合は数10 meVとなる。 これはフォノンやマグノンなど固体中の素励起の典型的なエネルギースケールに合致している。

これらの特性から、特に磁性研究においては中性子散乱が非常な威力を発揮する。本講演ではまず、磁性研究に用いられる種々の中性子散乱の実験手法を概観する。また、最近の我々の研究を例に取りながら、どのような側面で中性子散乱が有用であるかを紹介していきたい。


●世話人田中による紹介文

電子が支配する物性物理においてなぜ中性子?と思う方もおられるかもしれません。しかし、クーロン力に邪魔されない電荷ゼロの中性子は物質内部を探る有用なプローブとなります。

磁性体、強相関電子系などのの固体物性をはじめとして、高分子やコロイド、生体物質といったソフトマテリアルまで、幅広い物質や材料の基礎研究が中性子散乱を用いて盛んに行われています。特筆すべきは中性子がスピン1/2をもち、電子のスピンによって散乱されるという点です。 この電子のスピンを"見る"能力によって、中性子散乱は磁性分野において絶大な威力を発揮します。

南部先生はフラストレート磁性体、鉄系化合物などについて、中性子散乱を用いて第一線で活躍しておられる若手研究者でいらっしゃいます。磁性に携わる方、関心のある方は是非聞いておくべき公演です。
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ナノスケールサイズに現れる超流動ヘリウムの新しい現象
村川 智 先生(慶応義塾大学 理工学部)


超流動は超伝導とともにミクロな量子効果がマクロに現れる現象である。超流動はボースアイン シュタイン凝縮(BEC)と関連付けられ、系全体の性質を単一の 巨視的波動関数で記述できることから説明されている。渦の量子化やジョセフソン効果といった マクロに現れる量子性は、超流動・超伝導に共通に現れるため相 補的に研究が進んできた。

バルクで得られる超流動は、絶対零度まで固化せず液体で存在することのできるヘリウムでのみ で実現する。液体ヘリウムは不純物が非常に少ないため、超流 動・超伝導の研究の舞台としては理想的である。

さらに、ヘリウムにはヘリウム4とヘリウム3と 二つの統計性の異なる同位体があるため、単純なBECの研究とと もに超伝導と同様のBCS理論の研究も行えるという利点もある。 この超流動はナノスケールサイズの孔の中や壁近傍でさらに新しい現象が見られることが近年活 発に議論されている。

超流動ヘリウム3は内部自由度があるため いくつかの相があるが、その中でもB相と呼ばれる相はトポロジカル超流動と考えられ、壁近傍 に現れる表面状態がマヨラナ性を持つことが理論的に指摘されて いる。我々は超流動の音響応答を調べることで、実験的に表面状態がマヨラナ粒子であることを 示唆する結果を得た。

超流動ヘリウム4では、ナノ多孔体中にお いて超流動が大きく抑制され、局在BECと呼ばれる部分的にしか凝縮体ができない状態が実現し ており、我々はそれを利用したより汎用な超流動ジョセフソン接 合の実現を目指し研究を行っている。


●世話人楊による紹介文

超流動は超伝導と類似し、粘性が0になるという面白い性質を持っています。 マヨラナ粒子は反粒子が自分自身である面白い粒子で、量子コンピュータへの応用も期待されています。 局在BECを用いた超流動ジョセフソン結合も、聞くだけでわくわくしませんか?

そんな面白い物理現象たちを村川先生はわかりやすく解説してくださいます。 理論屋さん、実験屋さん共々楽しめる講演だと思いますので、ご参加をお待ちしております。
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