ランダム結び目と高分子:DNAの結び目
お茶の水女子大学理学部物理学科 出口 哲生

結び目とは3次元空間中の閉じた閉曲線のことを意味する。高分子 とは同じ分子単位が多数結合して連なった鎖状の巨大分子であり、 ひものような形状(線形鎖)の場合が多いが、しかし、様々なトポ ロジーの高分子も存在し、例えば閉じた輪のような自明な結び目の 環状高分子鎖も実在する。結び目高分子鎖は合成することも可能で あるが、大腸菌のプラスミドなど天然の環状DNAも存在する。

DNAは塩基対の2重螺旋であり、自己複製の際には非常に複雑な絡み 合いが生じるのではないかと考えられる。しかし、不思議なことに 生物は何らかの方法でDNAの絡み合いを解消し、結果的に環状 のDNA2重螺旋が無事に複製される。そのメカニズムはDNAの複製過程を 明らかにする上で本質的に重要である。

線形高分子鎖はランダムウォークを用いて研究され、環状高分子鎖は ランダムポリゴンを用いて調べられる。しかし、環状高分子鎖がつね に一定の結び目をもつというトポロジー一定の条件を理論に取り込む ことは容易でなく、様々な工夫が必要である。トポロジー一定の条件 は、非自明な相互作用を導き、エントロピー的な多体効果をもたらす。 これは高分子の理論で重要な絡み合い効果の一種(トポロジー的絡み 合い効果)であり、その理解は高分子物理において重要である。

本講義では、結び目のDNAに関する基礎的な知識を説明し、結び目不変 量を用いた数値シミュレーションによる最近の研究成果を紹介する。

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