周期表上のランタノイド系列に属するCe(セリウム)やSm(サマリウム)元素を含む物質は、「重い電子(heavy fermion)」や「価数揺動(valence fluctuation)」と呼ばれる興味ある現象を示す。 CeやSm原子の4f電子は、他の希土類元素の場合とは異なり、結晶中で局在性(同じ位置に長い時間留まっていること)のみならず、遍歴性(結晶中を動き回ること)をも有する。 局在電子は1個、2個と数えられるという意味で粒子的であり、一方、遍歴電子の波動関数は空間的な拡がりを持つ。 面白いことに、重い電子系のf電子は、高温の粒子的状態から低温の波動的状態に連続的に移行する。その結果、磁性と超伝導の共存のような不思議な現象が発現することとなる。 本講義では、重い電子系の物理を理解する上で必要となる近藤効果、あるいは結晶場効果といった基本的な事柄について説明を行う。
Ce(セリウム)やU(ウラン)原子を構成する4fまたは5f電子は、磁気秩序と超伝導という二つの長距離秩序の共存・競合を引き起こす。 超伝導体に磁場を加えると超伝導は消失する。同じように、磁気秩序が生み出す内部磁場(分子場)も超伝導のクーパー対を壊すように思われる。 少なくとも、同じf電子が磁気秩序を作りながら超伝導電流を運ぶことはなさそうである。しかし自然界には、UPd2Al3に代表される反強磁性秩序と超伝導の共存系が存在する。 本講義では、この物質に対して我々が提案している新しい超伝導メカニズム(磁気励起子媒介超伝導)について説明を行う。 また、圧力によって反強磁性と超伝導がスイッチするCeRhIn5や、磁石でありながら超伝導を示すUGe2に関する最近の研究成果を紹介したい。 特に、これら興味ある物質の示す圧力・温度相図からどのような情報を引き出すことができるかなどについて説明を行いたい。