非平衡散逸系が自発的に生み出すリズムは、軌道の漸近安定性をもつリミットサイクル振動子によって記述される。単一のリミットサイクル振動子はそれ自身すでに解析 的記述が一般に不可能な非線形システムである。したがって、リミットサイクル振動子の集団やネットワークの挙動を明らかにすることは途方もなく困難な数学的問題と 考えられ、ごく近年までその研究はほとんどお手あげの状態だった。しかし、縮約理論を突破口として長い不毛の時代は終焉し、今や活気に満ちた新しい時代に入ってい る。他方、生命科学の飛躍的進歩とともに次々に明らかにされる新事実によって、生命過程におけるリズム間の同期・非同期という現象の重要性はますます疑いようのな いものとなってきた。そして、文字通りの生き物のみならず、あたかも生けるがごとく躍動する多くの自然現象においても、リズムと同期の機構がその根底にあることが 広く認められつつある。
この講義では、リズム現象の理論的基礎である二大縮約法、すなわち中心多様体縮約法と位相縮約法についてまず概観する。次いで2振動子間の結合様式の基本タイプ について述べ、振動子集合体のダイナミクスの考察へと進む。結合距離の変化によって振動場はさまざまな様相を見せ、またランダムネスの導入は思いがけない効果をも たらす。このように、振動子集団の挙動は状況に応じてきわめて多彩である。講義ではさまざまな具体例を織り交ぜながら、結合振動子系の多彩な挙動を理解する上で縮 約理論がどのように有効に用いられるかをわかりやすく述べたい。