• 講義アブストラクト



1. マクロ化創発のパラドックス
小嶋 泉 先生 (ドレスト光子研究起点)


 ミクロ/マクロ,量子/古典の相互関係は,前者における非可換物理量が「古典極限」ℏ → 0 で可換化して古典論が現れ,逆に後者を「量子化」し正準交換関係で量子論的非可換性を持込めば量子論が得られる,というのが常識的・標準的な「量子古典対応」の理解だろう.こういう常識的想定が崩れ,ミクロレベルに存在しなかった物理的自由度,物理変数がマクロレベルで物理的自由度に「化ける」状況,それがどんなメカニズムで起こるのか?をここでは論じたい.典型例は量子電気力学における縦波 Coulomb モード:量子論的ミクロレベルに Coulomb モードは存在せず,縦波光子はたとえ「存在」しても観測に掛からない「非物理的モード」だというのが「ゲージ場の共変的演算子形式」の結論だが,しかしマクロレベルには立派に Coulomb モードが存在して電荷間のポテンシャルを記述する.この見方で BCS 超伝導理論と Higgs 機構とを比較すれば,前者に存在する Cooper 対が後者では「非物理的モード」として消去され,両者の間には重要な食い違いが残る.ここで重要な役割を担うのは常に「悪者扱い」される「不定計量」だが,実は熱力学,統計力学の文脈も踏まえて見直せば,そこからはもっとダイナミックな物理が展開する!無限自由度系の統計力学や「標準量子限界」を破る小澤の測定モデル等々の例を通して,鞍点法との面白いつながりを読み解く試みを始めよう。

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2. 量子コンピュータの基礎と物理との接点
藤井 啓祐 先生 (東京大学大学院工学系研究科 附属光量子科学研究センター)


 量子コンピュータは,現代物理学の基礎をなす量子力学の原理に従って(最大限に活用して)動作するコンピュータである.量子コンピュータは,量子系のシミュレーション,素因数分解,量子化学計算など,従来のコンピュータでは困難なタスクを効率良く実行することができる.また,量子コンピュータをどのように構成するか(量子計算モデル),量子加速(quantum speedup)のためにはどのような要素が必要であるか,そして,どのようにして雑音から量子情報を守り量子コンピュータを実現するか,といった数理的なテーマは,量子相転移,量子多体系のダイナミクスの複雑性,可解模型,トポロジカル秩序などの物性物理における重要なテーマとの接点も多い.本講義では,量子コンピュータの仕組みや関連する重要なトピックについて基礎から解説し,物性物理学との接点について紹介する.

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3. 磁性体におけるトポロジー・対称性の破れによる異常電気磁気応答
小野瀬 佳文 先生 (東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)


 スピン軌道相互作用の効果が,物質中のトポロジーや対称性の破れを通じて,異常な電気磁気応答として現れる例が多く報告されてきている.その代表例が,磁性誘起強誘電体(マルチフェロイクス)やトポロジカル絶縁体である.講義では,特に磁性体におけるこれらの問題を取り上げる.トポロジーに関しては,磁性体におけるベリー位相誘起のホール効果を中心に解説する.まず基本となるベリー位相の概念を導入し,その後にスピンカイラリティーやスキルミオンといったベリー位相を発現させるトポロジカルな磁気構造やそこでのホール効果(トポロジカルホール効果)の特徴について解説する.また,対称性の破れに関しては,まず空間反転対称性が破れた磁気構造によって強誘電体が発現するマルチフェロイクスに関する現象を概観し,逆ジャロシンスキー守谷機構,交換歪,スピン依存 d-p 混成機構といった微視的な起源を述べる.さらに,光子,マグノン,フォノンといった素励起が,対称性が破れた物質中でどのように振舞うかといった問題についても述べる予定である.

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4. アンドレーエフ束縛状態の物理
田仲 由喜夫 先生 (名古屋大学大学院工学研究科 応用物理学専攻)


 不均一な超伝導体においては電子がホールとして反射するアンドレーエフ反射が存在する。また電子とホールの干渉によりギャップ内にできる束縛状態をアンドレーエフ束縛状態とよぶ。アンドレーエフ束縛状態はペアポテンシャルがフェルミ面上で符号変化する系では零エネルギー状態を含む表面アンドレーエフ束縛状態(SABS)として存在し, SABS は,トポロジカルエッジ状態として知られている。またスピン自由度が凍結したす系(スピン零エネルギー SABS はマヨラナフェルミオンとして理解されている。他方 SABS はバルクには存在しない奇周波数ペアとみなすこともでき、奇周波数ペアは超伝導近接効果を理解するうえで重要な概念となっている.講義では今日までの発展を紹介したい.

1. 超伝導の基礎 異方的超伝導体とは
2. BdG 方程式とアンドレーエフ反射 アンドレーエフ束縛状態
3. トンネル効果とジョセフソン効果
4. 異方的超伝導体における表面アンドレーエフ束縛状態(SABS)
5. 奇周波数クーパーペアと SABS (Eilenberger 方程式)
6. 近接効果に現れる奇周波数クーパーペア(Usadel 方程式)
7. トポロジカル不変量と SABS
8. SABS の分類 とマヨラナフェルミオン
9. トポロジカル超伝導の人工設計
10. ドープしたトポロジカル物質(絶縁体・半金属)の超伝導
11. トポロジカル結晶超伝導
12. マヨラナフェルミオンを超えて パラフェルミオン

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5. 強相関とトポロジー
川上 則雄 先生 (京都大学大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻)


 凝縮系物理学において重要な概念である強相関現象およびトポロジカル現象について入門的な講義を行います.特にその絡み合いから生じる「強相関トポロジカル現象」について議論します.
 まず,強相関の基礎から始めます.強相関の本質は「近藤効果」と呼ばれる多体効果に集約されるといっても過言ではありません.近藤効果は古くから研究されていますが,物理学のいたるところに顔を出す,とびっきり重要な概念です.近藤効果に基づいて,強相関系相転移の典型例である「モット転移」の話をしたいと思います.近藤効果とモット転移が理解できれば,強相関の基礎はバッチリです.
 この強相関の考え方を基礎として,トポロジカル現象への相関効果について議論します.トポロジカル絶縁体・超伝導体の研究は,この十年くらいで一気に進み,特に弱相関系のトポロジカル現象はよく理解されています.一方,強相関トポロジカル現象に関してはまだ理解が十分とは言えず,現在,精力的に研究が進められています.ここでは,まず相互作用のないトポロジカル絶縁体から話を始め,強相関効果を取りこみます.トポロジカル近藤絶縁体,トポロジカルモット絶縁体,相互作用による分類のリダクションなどを例にとって,最近の話題を紹介します.  

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6. 光電子分光で見る強相関物質と超伝導体
藤森 淳 先生 (東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻)


 物質が示す磁性,超伝導,金属-絶縁体転移などの多様な物性は,電子間相互作用とそれにより生じる電子の絡み合った運動(電子相関)が原因となって現れている.電子間相互作用・電子相関を最も直接的かつ詳細に調べる方法として,光電子分光(とくに角度分解光電子分光 ARPES)は絶大な威力を発揮してきた.近年では時間分解 ARPES で過渡的な電子状態の観測も可能になってきた. ARPES では光子を吸収して真空中に放出された光電子のエネルギー・運動量・スピン分布を計測するが,これらの分布は光電子放出で残された正孔の運動を反映している.このため,光電子スペクトルは単なるバンド構造ではなく,電子相関の衣を着て伝搬する正孔の1粒子グリーン関数を表している.光電子スペクトルからは電子間相互作用・電子相関がわかるだけでなく,フォノン・スピン揺らぎ・電荷揺らぎなどのボゾン励起のエネルギーやボゾン-電子結合の強さもわかり,輸送現象や超伝導機構の研究に重要な寄与をしてきた.また,長距離秩序(短距離秩序)によりフェルミ面に開くギャップ(擬ギャップ)は,磁気秩序・電荷整列・超伝導などそれぞれの秩序の性格を反映する.本講義では,強相関電子系の光電子分光の基本原理から始めて, ARPES で見えるバンド構造とフェルミ面が電子相関にどう影響されるのか,ボゾン励起や長距離秩序・短距離秩序にどう影響されるのかを,実際の強相関酸化物とそのヘテロ構造、高温超伝導体、強磁性半導体を例に解説していく.

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